「猿とエッチしたらエイズになるわ」「黒人とかな」――。
吉本興業所属のお笑いコンビ「金属バット」のこんな発言を収めたネタ動画が、YouTube上で84万回以上、再生されている。
HIV陽性者の団体や支援団体は「ショックというよりも呆れた」「差別や誤解を強化するのはやめてほしい」などと批判している。
M-1準決勝出場の実力派
問題となっているのは、2012年2月に投稿された5分43秒の漫才動画。「ブラックチャリティー3 〜ぼくらはみんな地球人〜」というライブの模様を収録したものとみられる。
金属バットは、2006年4月に結成された、小林圭輔さんと友保隼平さんの2人組だ。昨年の「M-1グランプリ」で準決勝に進出した実力派で、今年4月には人気番組「アメトーーク!」にも出演している。
ボケ担当の小林さんが、双子タレントの「マナカナ」こと三倉茉奈さんと三倉佳奈さんの見分け方を語り、友保さんがツッコミを入れる構成をとっている。
「カナはな、エイズなんやけど」
小林さんがマナさんの特徴を「風邪をひいたことがない」「ずっと健康」と説明した後、2人のやりとりはこんな風に続く。
「カナはな、エイズなんやけど」(小林さん)
「終わってるやろ!」(友保さん)
「ちゃうねん。まだ発症はしてないねん。カナのええとこっていうのはな、発症してないのにな、抑える薬打ってないねん、アイツ」(小林さん)
「終わってるやんけ!」(友保さん)
「そこがロックンロールやねん、アイツ」(小林さん)
「死ぬでそんなヤツ」(友保さん)
「そらエイズになるわ」
そこから、マナカナの「好きな男性のタイプ」に話題は展開していく。
「カナの好きなタイプがな、人間じゃないんよな。人間はいらんらしい、もう」(小林さん)
「どういうこと?」(友保さん)
「もう、猿、犬、馬とか…」(小林さん)
「獣姦なん?」(友保さん)
「そこらへんで勝負しよんねんな」(小林さん)
「いよいよやな。そらエイズになるわ。猿とエッチしたらエイズになるわ」(友保さん)
「黒人とかな」(小林さん)
「やめ、お前!」(友保さん)
「そこらへんで勝負しよんねんな」(小林さん)
「終わってんな、アイツ」(友保さん)
観客の笑いに絶望
このネタについて、HIVと向き合って生きる人たちはどう受け止めたのか。
NPO法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」代表の高久陽介さんは、BuzzFeedの取材に「ショックというよりも呆れた」と明かす。
「『言ってはいけないことを言って笑いをとる』という確信犯でやっているような印象。小さい子がウンコちんこと叫んで笑っているのと、同じレベルにしか見えなかった。めっちゃダサいし、何も面白くない」
「私はお2人のネタの露悪的手法よりも、それを聴いて観客が笑っているということに、より絶望を覚えます。いまだに、エイズに対して、蔑んだりバカにされて当然のものだと内心思っている人がいるんだなと」
ライブは閉ざされた空間であり、ひいきの芸人のネタを見たい人たちが足を運ぶ場だ。それでも、高久さんはネット上で動画がいつでも見られる状態にあることを問題視する。
「いまの時代、こうしてネット動画で大勢の目に触れるということは、テレビに流れるのと同じ前提で、倫理観を持たないといけないはずです」
「もし、どうしてもこんなひどいネタをやるという芸風ならば、ネットに流さないでほしいですね」
「批評性や皮肉は感じない」
金属バットをめぐっては、昨年12月にライブで披露したネタをめぐっても「黒人が触ったもの座れるか!」といった発言が批判を集めている。
一方で、「ネタ全体で差別の構造を皮肉っている」「綺麗ごとを言っていても、結局差別するヤツは差別する、という風刺」といった擁護論も出された。
高久さんは「違うネタについては何とも比較しようがない」としつつ、「件の金属バットのネタ(エイズを扱ったもの)については、批評性や皮肉は何も感じませんでした」と言う。
茉奈さん本人は「爆笑」
また、「マナカナ」のネタに関して、三倉茉奈さんは2017年12月、Twitterで次のように投稿。半ば「公認」を与えるかのような発言をしている。
《面白いものを見つけてしまった…!! 金属バットっていう芸人さんが、「マナカナの見分け方」ってネタをやってらっしゃって、めっちゃ面白い! 最初はリアルで、途中からなかなか振り切ってらっしゃるし、ウソばっかりやけど笑、爆笑してしまった》
この点に関して、高久さんはこう指摘する。
「私の問題意識としては、彼女個人への中傷はポイントではないので、特に意識しなくて良いかなと思います」
「少なくとも彼女はHIV陽性ではないのでしょうし。でも、彼女の大切な人がHIVに感染していると判明したら、きっと彼女に打ち明けることはないでしょうね」
検査のハードルが上がらないか
HIV陽性者を支援するNPO法人「ぷれいす東京」の代表・生島嗣さんも「差別や誤解を強化するのはやめてほしい」と金属バットの動画に懸念を示す。
「何が問題かというと、“他人事”意識がその根底にあること。目の前には、当事者はいないと言う思い込みです」
「もしそこにHIV陽性者やパートナー、感染不安を心配する人がいたら、顔が引きつりながらも周囲に合わせ、その反応がバレないようにつくり笑いをして、その場をやり過ごしていたことでしょう」
「そして内心では、『HIVのことは周りには話していけないことなんだ。もし、バレたら、笑いの対象になるのだ』と感じるでしょう」
その結果、周囲に伝えることをためらい、検査を受けることのハードルも上がってしまう――。生島さんはそんな負のサイクルを危惧している。
天寿をまっとうできるように
HIVウイルスは後天性免疫不全症候群を引き起こすことから、かつては「死の病」として恐れられた。だが、現在は治療法の研究が進歩し、ウイルスとともに天寿をまっとうできるようになった。
「死ぬでそんなヤツ」「終わってんな」といった表現は、「死の病」という誤ったイメージを補強しかねない。
「猿とエッチしたらエイズになるわ」という言い回しについても、生島さんは「感染した人たちの感染経路へのネガティブなイメージづけにつながる」とみる。
「HIVはコンドームなど予防なしの行為で感染するのであって、誰とセックスをしたから、ということではありません。個人的にはまったく笑えませんでした」
BuzzFeedはこのネタの真意や披露していた時期、今後の対応などについて、金属バットが所属する吉本興業に問い合わせている。回答があり次第、追記する。