乳幼児への供給に影響も
結核予防のBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の発症や重症化を防ぐ可能性が海外で指摘されたことを受け、3月末から国内でBCGワクチンの出荷量が例年の3倍に急増したことが、西日本新聞の取材で分かった。予防接種法に基づき1歳未満の乳児に定期接種されているが、新型コロナ予防で大人の接種希望者が急増しているためとみられる。乳幼児への供給に深刻な影響を及ぼす恐れがあり、メーカーが出荷量の調整を始めた。
本紙「あなたの特命取材班」に小児医療関係者から「コロナ禍の影響でBCGワクチンの供給が滞っており、本当に必要な赤ちゃんに接種できなくなりつつある。赤ちゃんを危険にさらすのはやめてほしい」という声が寄せられた。
国内唯一のBCGワクチン製造会社「日本ビーシージー製造」(東京)によると、乳児への定期接種を前提に出生数に応じて製造数量を決めているが、海外研究の報道があった3月末から出荷量が例年の約3倍に急増したという。
担当者は「新型コロナ予防で接種を希望する成人が受診しているとの情報がある。この状態が続くと、乳幼児への供給に影響を及ぼす」としており、医薬品卸への出荷量を例年並みに抑えるよう調整し始めた。
BCGワクチンをめぐっては、子どもへの接種の有無が、各国の新型コロナの患者数や重症者数に影響しているのではないかとの仮説を海外の研究チームが提示。オーストラリアの研究機関などが、BCGワクチンの有効性を確認する臨床試験を実施する方針を明らかにした。
一方、日本ワクチン学会は、新型コロナへのBCGワクチンの効果は科学的に確認されておらず「現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない」との見解を公表。高齢者への接種に関しても「知見は十分でない」と強調している。厚生労働省結核感染症課によると、国内で法律に基づくBCGワクチンの予防接種が始まったのは1951年で、それ以前に生まれた人は予防接種を受けていない可能性が高いという。
「在庫ゼロで、入荷の見通しは立っていない」(都内の小児科医院)など一部の医療機関でBCGワクチンの確保が難しくなっているが、日本ビーシージー製造は「現時点で小児の結核予防接種に使う在庫量はある」と説明。医薬品卸に対して、医療機関に納入する前に「乳幼児への定期接種用であること」を確認するよう求めているという。(坂本信博)