その四十五 善と悪の議論
セイルンは、生意気な口調でハンスたちに言いました。
「老師が、お前もハンスたちといっしょに天国の鍵をさがせと言ったんだ。おれはべつに天国なんか興味(きょうみ)ないけどね」
そして、セイルンは、ハンスたちのそばにいるチャックを見ていいました。
「なんで小悪魔がおまえたちといっしょにいるんだ」
チャックはむっとした顔で言いました。
「お前こそ、竜の子供だろう。なんで人間のふりをしている」
ハンスたちはあきれて二人の言い合いを見ていました。
チャックはアリーナに向かって弁解(べんかい、いいわけのこと)するように言いました。
「こいつの言うとおり、ぼくは実は悪魔なんだ。でも、悪魔の中でも人間に近い種類でね。まあ、悪魔というよりは妖精と言ったほうがいいくらいで、確かに人間の道徳にはまったくしばられないから、人間から見たら悪いこともするが、それはぼくらにとっては悪でもなんでもないんだ。悪という観念がぼくらにはまったくないんだよ」
「ようするに、大人なみの知能を持った赤ちゃんなんだ」
セイルンがあざ笑うように言いました。こっちのほうは、見かけは七、八歳くらいなのに、言うことは大人びています。
「なんで悪魔が天国の鍵をさがすんだ?」
ハンスが聞くと、チャックは笑って言いました。
「おもしろそうだからさ」
「しかし、地上が天国になったら、君たちは消えてしまうかもしれないぜ」
「それもいいさ。ぼくには自己保身の欲望なんかない。その点、人間なんかよりずっと天上的な生き物さ」
「悪魔が天上的とはお笑いだな」
セイルンが言うと、チャックも言い返します。
「お前の師匠のロンコンも、ブッダルタとやらもわかっていない。この世になぜ悪があるのかということをな。その点、ルメトトはさすがだ。ちゃんと悪の存在意義を知っていた」
「悪魔の自己弁護を聞いていると、まるで悪が善よりも善みたいな気がしてくるぜ」
「まあ、考えてみるがいい。この世の人間がみんなロンコンやブッダルタみたいになったとしたらどうだ。地上がそのまま天国になるとはそういうことだ。そんな世界の何が面白い。我々がいるからこそ、この世はこんなにも面白い世界になっているのではないか」
「悪の存在意義とは、この世を面白くすることか。では、その悪のために悲しみ、嘆く被害者たちはどうなる」
「そんなのは俺たちの知ったことじゃない」
セイルンは、生意気な口調でハンスたちに言いました。
「老師が、お前もハンスたちといっしょに天国の鍵をさがせと言ったんだ。おれはべつに天国なんか興味(きょうみ)ないけどね」
そして、セイルンは、ハンスたちのそばにいるチャックを見ていいました。
「なんで小悪魔がおまえたちといっしょにいるんだ」
チャックはむっとした顔で言いました。
「お前こそ、竜の子供だろう。なんで人間のふりをしている」
ハンスたちはあきれて二人の言い合いを見ていました。
チャックはアリーナに向かって弁解(べんかい、いいわけのこと)するように言いました。
「こいつの言うとおり、ぼくは実は悪魔なんだ。でも、悪魔の中でも人間に近い種類でね。まあ、悪魔というよりは妖精と言ったほうがいいくらいで、確かに人間の道徳にはまったくしばられないから、人間から見たら悪いこともするが、それはぼくらにとっては悪でもなんでもないんだ。悪という観念がぼくらにはまったくないんだよ」
「ようするに、大人なみの知能を持った赤ちゃんなんだ」
セイルンがあざ笑うように言いました。こっちのほうは、見かけは七、八歳くらいなのに、言うことは大人びています。
「なんで悪魔が天国の鍵をさがすんだ?」
ハンスが聞くと、チャックは笑って言いました。
「おもしろそうだからさ」
「しかし、地上が天国になったら、君たちは消えてしまうかもしれないぜ」
「それもいいさ。ぼくには自己保身の欲望なんかない。その点、人間なんかよりずっと天上的な生き物さ」
「悪魔が天上的とはお笑いだな」
セイルンが言うと、チャックも言い返します。
「お前の師匠のロンコンも、ブッダルタとやらもわかっていない。この世になぜ悪があるのかということをな。その点、ルメトトはさすがだ。ちゃんと悪の存在意義を知っていた」
「悪魔の自己弁護を聞いていると、まるで悪が善よりも善みたいな気がしてくるぜ」
「まあ、考えてみるがいい。この世の人間がみんなロンコンやブッダルタみたいになったとしたらどうだ。地上がそのまま天国になるとはそういうことだ。そんな世界の何が面白い。我々がいるからこそ、この世はこんなにも面白い世界になっているのではないか」
「悪の存在意義とは、この世を面白くすることか。では、その悪のために悲しみ、嘆く被害者たちはどうなる」
「そんなのは俺たちの知ったことじゃない」
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