歯が痛いと言っている患者に、「いや、あなたの歯痛は目のせいです」と言う医者はいないだろう。外部からでも原因が特定できたり、痛む箇所や不調の箇所が明白な病気と、内臓や体内器官に問題がある病気とでは、診断の正確さに大きく違いができて当然である。
そもそも、患者自身が自分の病状を医者に正確に説明できるとは限らないし、まさか血圧や脈拍の数字だけで患者の病気が判断できるはずもない。体内の器官の異常が原因での病気の誤診率が14%なら、素晴らしい名医だと言えるのではないか。
逆に言えば、どんな名医でも7回に1回は間違える、ということだ。
昔の人間なら、病気になれば、必ず治るとは限らない、ということを当たり前に受け入れていたと思うのだが、科学信仰の狂信者が多い現代では、病気は治るもの、と決めつけている人間が多いように思う。それが、「医者の誤診を絶対に許さない」という姿勢につながり、だから医者の側も、自己防衛に走り、患者を治すよりも「悪く行っても、訴訟だけはされない」ような医療になっているのではないか。
まあ、難病になったら半分くらいは死を覚悟するくらいでいいように私などは思っている。もちろん、治療に大金がかかるようなら、最初からあきらめるつもりである。
医者の使命は、患者に日常生活の不自由が無くなるようにすること、つまり健康の回復や維持であり、延命が使命ではない、と私は思っている。
馬齢を重ねて100歳まで無為に生きるのも悪くはないが、それが数年延びようが縮まろうが大差は無いのではないか。ほどの良いところでこの世からおさらばしてもいい、と、ある年齢になったら考えるほうがいいように思う。
(以下引用)
嘔吐や耳鳴り 医師の決めつけで重病が放置された誤診の例
NEWSポストセブン / 2017年4月23日 7時0分
なぜ誤診は起こってしまうのか?
「私の誤診率は14.2%である」──神経内科の権威で東大名誉教授の冲中重雄氏は、1963年、東大を退官する際の最終講義でこう述べた。
これは臨床診断と剖検(病理解剖)結果を比較して出した数字で、医療関係者はその率の低さに驚嘆したが、市井の人々は逆に、日本最高の名医でも14%も誤診があるという事実に衝撃を受けた。
また、2004年に世界的に有名な医学専門誌『Archives of Internal Medicine』に、フランスの医師らがICU(集中治療室)で死亡した人々の剖検結果についての論文を掲載した。そこには〈生前診断の約30%は誤診だった〉と書かれていた。
誤診が起こる理由としてもっとも多いのが診察時の「見誤り」や「見落とし」だ。実例を見ていこう。
〈眼科医に緑内障と診断されて以来、定期的に眼科で検査を受け、点眼薬を使い続けたが、右目の視野がどんどん狭くなっていった。治療効果が得られずおかしいと思い、大学病院でCTスキャンを撮ったところ、「脳腫瘍」だと宣告された〉
脳は人体において最も重要な器官であるが、疾患の症状は多岐にわたるため、脳が原因だと疑われないケースもある。
この患者は腫瘍摘出手術を受けたが、結果的に右目は失明してしまったという。上野毛脳神経外科クリニック院長の小林信介氏が解説する。
「脳腫瘍が視神経を圧迫し、視力悪化や視野狭窄などの症状が出るケースです。急激な視力悪化など緑内障と症状が似ているため、誤診されることが多い。もっと早く精密検査をしていれば、失明せずに済んだかもしれません」
高齢者の場合、脳腫瘍の発症部位によっては、軽度の認知症を引き起こすこともある。
「もの忘れが1年ほど前からひどくなり、言葉が出なくなったという男性が先日来院され、MRI検査をしたところ脳腫瘍が見つかりました。腫瘍を手術で取り除いてからは、もの忘れの症状が改善されました」(同前)
〈日常的な耳鳴りに悩まされ、近所の耳鼻科に相談したところ「耳鳴りは老化現象の一つだから仕方ない」と言われた。後日、別の病院で聴力検査を受けると、聴力に左右差があった。念のためMRIを撮ってみると、「聴神経腫瘍」という脳腫瘍が見つかった〉
井上耳鼻咽喉科院長の井上里可氏が言う。
「最初の医師はなぜ、単なる老化と決めつけたのか。耳鼻咽喉科医の間では、耳鳴りは、聴神経腫瘍の初期症状として知られています。
この脳腫瘍は神経にできる“おでき”のようなもので、100人に1人くらいの割合で発生します。耳鳴りは脳腫瘍に限らず、様々な病気のサインであることが多い。“耳鳴りは放置してはいけない”と心してほしい」
その他、くも膜下出血の誤診も起こり得る。くも膜下出血の典型的なサインといえば“頭をバットで殴られたような痛み”だが、それ以外に“首の後ろが痛むだけ”というケースもある。
後者の場合、整形外科に行ってしまうと「寝違え」などと誤診され、症状が現われた時には手遅れという可能性がある。症状としては「嘔吐」や「吐き気」もポイントとなるため、もしそれらがあれば脳神経外科を受診するべきだろう。
※週刊ポスト2017年4月28日号