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政治要因としての「狂犬主義」

「櫻井ジャーナル」記事で、政治的記事だが、私が長い間田中宇の「隠れ多極主義」という言葉に違和感を持っていたことへの、ある解答が得られたように思うので、ここでは政治的随想としての記事を書く。そのきっかけがこの「櫻井ジャーナル」記事であるわけだ。
田中宇の持論である「単独覇権主義」対「隠れ多極主義」の争闘という考えの欠点は、「米国の隠れ多極主義者が、意図的米国自滅策を推進することで得られる、当人たちの利益は何か」というのが分からないところで、「隠れ多極主義者」がロシアや中国のスパイでもない限り、米国の自滅による当人たちの利益は無いだろう。そして、米国が自滅した時、彼らがロシアや中国から褒賞されることは、まずありえない。使用者は、彼らを捨て去るか無視するか抹殺するのが一番確実な安全策だからだ。歴史の上で、スパイが褒賞された事例はほとんど無いはずで、スパイというのはそういう覚悟でしかできない仕事だろう。
そこで、米国の政治や政策の混乱をもっと単純に「狂犬(強権)派」対「穏健派」と見れば、田中流の「単独覇権主義」対「隠れ多極主義」の対立と見かけ上の現象はまったく同じでありながら、より説得性が増す、というのが私の考えだ。つまり、米国の政治は理性(利益)だけでなく、感情で動いているという考えである。感情で動いているのが「狂犬派」であり、理性で動いているのが「穏健派」である。これは人間個人の場合と同様である。我々は、理性では相手を許容すべきだと考えても、虫の好かない相手と仲良くすることはできない。これは民族対民族でも、国家対国家でも同じだ、というのが私の言う「感情政治」である。集団意思の決定の場においても感情的煽動のほうが理性的(合理的)弁論に勝るというのは実によく見られることだ。
基本的に我々は異物(外物)を怪しみ、下に見たがるのだが、この気持ちは常に国際関係の根幹にある。ほんの少しのことでこうした蔑視と相手への恐怖感と排除心は表面化するのだ。

話が長くなったので、「感情政治(狂犬主義)」の説明となる部分を引用文に赤字にしておく。

(以下引用)狂犬主義とは、要は「ヤクザ的な恫喝」である。恫喝だから、基底には感情がある。憎い相手だから恫喝するのだ。もちろん、かつての西欧人の対東洋人姿勢のように、演技的恫喝で相手を従わせる、ということもある。

2022.11.15

 
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 ウクライナでも冬が本格化しようとしている。ステップ(大草原)の地面が凍結して戦闘車両の走行が容易になり、木々の葉が落ちるこの季節にロシア軍は新たな軍事作戦を予定している。すでにT-90M戦車や防空システムS-400を含む兵器がドンバス周辺へ運ばれ、部分的動員で集められた兵士のうち約8万人はすでにドンバスへ入り、そのうち5万人は戦闘に参加しているというが、訓練中の約32万人も新作戦が始まる前には合流するはずだ。


 そうした中、アメリカの​ビクトリア・ヌランド国務次官が11月末までにモスクワを訪問する方向で調整しているロシアのメディアが伝えている​。アンカラでアメリカの要請により、米露が秘密会議を開いたともいう。状況が悪いと考え、例によって時間稼ぎを目論んでいるのかもしれないが、バイデン政権の思惑通りになるとは言えない。



 ヌランドはネオコンの中核グループに属し、2013年11月から14年2月にかけてバラク・オバマ政権がキエフで実行したクーデターを現場で指揮していたことで有名。当時は国務次官補だった。そのクーデターの手先がネオ・ナチだ。彼女の夫はロバート・ケイガン。ロバートの弟はフレデリック・ケイガン、その妻はISW(戦争研究所)を創設したキンバリー・ケイガン。いずれもネオコンの主要メンバーだ。



 キンバリーはアメリカ中央軍やISAF(国際治安支援部隊)の司令官、そしてCIA長官を務めたデイビッド・ペトレイアスと親しい。ペトレイアスはオバマ政権で国務長官を務めたヒラリー・クリントンと親しく、ウクライナでの戦争継続を有力メディアで主張してきた人物だ。



 オバマ政権で副大統領だったジョー・バイデンは大統領に就任した直後からロシアのウラジミル・プーチン大統領を愚弄、挑発、経済戦争を仕掛けてきた。昨年12月7日にバイデンはプーチンとオンライン会談を実施、その際にロシア大統領はNATOの東への拡大は止めるように求めたが、米大統領はウクライナのNATO加盟へロシアは口を出すなという態度を示した。



 NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務局長もロシア政府の要求を拒否していたが、その​ストルテンベルグが11月9日、スカイ・ニュースのインタビューの中で「ロシアを過小評価するべきでない」と口にした​。恫喝すればロシアは屈するといういう姿勢を貫いていた人物にしては慎重な発言だ。西側の力関係に変化があったのかもしれない。



 アメリカが何をしでかすかわからない「狂人」のような国だと相手に思わせれば自分たちが望む方向へ世界を導けるとリチャード・ニクソンは考え、イスラエルは狂犬のようにならなければならないと同国のモシェ・ダヤン将軍は語った。ネオコンも同じように考えてきた。



 NATOの東方拡大はロシアに対する軍事的な恫喝であり、ウクライナの制圧は「緩慢なオデッサ作戦」の始まりを意味する。それでもロシアは戦争を恐れて出てこないとネオコンは信じていた。以前からそうした「信仰」を持っていたのだが、1990年の湾岸戦争でその信仰は確信になっている。



 1991年12月にソ連が消滅するとネオコンは世界制覇プランを作成し、ビル・クリントン政権は第2期目に旧ソ連圏の制圧に乗り出す。1997年1月に国務長官を戦争に慎重なクリストファー・ウォーレンから好戦的なマデリーン・オルブライトへ交代してからだ。1998年4月にアメリカ上院はNATOの拡大を承認しする。



 しかし、「封じ込め政策」で有名な​ジョージ・ケナンはそうした政策はロシアを新たな冷戦に向かわせると警告​している。ケナンは反コミュニストの外交官として有名だが、その彼でも危険だと感じたのだ。



 またヘンリー・キッシンジャーは今年5月にスイスのダボスで開かれたWEF(世界経済フォーラム)の年次総会で、ロシアとウクライナとの特別な関係を指摘、​平和を実現するためにドンバスやクリミアを割譲して戦争を終結させるべき​だと語り、ジョージ・ソロスと対立した。



 2001年9月11日以降、ホワイトハウスはネオコンに掌握されてきたが、支配層の内部にも非ネオコン派は存在しているようで、ここにきてそうしたグループの発言が聞かれるようになっていた。



 また、アメリカの統合参謀本部はジョージ・W・ブッシュ政権がイラクを先制攻撃を決めた2002年以来、戦争に慎重な姿勢を維持している。大義がなく、作戦が無謀だという理由からだ。2011年春にオバマ政権は中東から北アフリカにかけての地域で「アラブの春」と名づけられた体制転覆作戦を展開した。



 その際、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長をはじめとする軍の幹部もオバマ政権が進めていたバシャール・アル・アサド政権の崩壊は混乱を招き、ジハード過激派(アル・カイダ系武装集団)がシリアを乗っ取ると懸念していたが、アサド政権は倒れない。そこでオバマ政権は「穏健派」を支援するとしてアル・カイダ系武装集団を支援した。



 ​そうした支援を危険だとする報告書をアメリカ軍の情報機関DIAは2012年8月、ホワイトハウスへ提出​している。オバマ政権が支援している武装勢力の主力はサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団で、アル・ヌスラ(AQI/イラクのアル・カイダ)と実態は同じだと指摘されていた。その中で、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるとも警告していた。その警告は2014年、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)という形で現実になった。



 ウクライナの構図もシリアと同じ。中東や北アフリカではサラフィ主義者やムスリム同胞団が傭兵の中心的な存在だったが、ウクライナではネオ・ナチということにすぎない。



 2007年からNATOの秘密部隊ネットワークに参加、21年11月からウクライナ軍参謀長の顧問を務めているドミトロ・ヤロシュはウクライナにおけるネオ・ナチの幹部だが、07年5月にウクライナのテルノポリで開かれた欧州のネオ・ナチや中東の反ロシア・ジハード主義者を統合するための会議で議長を務めている。



 そして2014年3月に彼が発表した声明の中で、チェチェンやシリアでロシアと戦ったサラフィ主義者などイスラム系武装集団への支援を表明した。



 ちなみに、ウクライナへ欧米から流れ込んだ兵器の相当部分は闇市場へ流れたと言われているが、その行き先はイラクにあるPKK(クルディスタン労働者党)の基地で、イランのクルドへ供給されると言われている。

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