「今の小学生はHB鉛筆を使わないらしい」ーーこんな話を聞き、兵庫県内の小学校に通う親戚に電話で尋ねると「2Bだよ。かきかたの授業だけ6B」。入学時の説明会では学校から「鉛筆はBまたは2Bを4〜5本」と指定があったそうです。昭和世代の筆者にとっては鉛筆=HBだったのに。慣れ親しんだHB鉛筆の「今」を調べました。
鉛筆の硬度のJIS規格は17種類
日本筆記具工業会のホームページによると、鉛筆の芯の硬度はJIS規格により6Bから9Hまで17種類あり、やわらかい順に6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6H、7H、8H、9Hの記号が付けられています。やわらかい芯の記号BはBlackの頭文字B、かたい芯のHはHardの頭文字。「HとHBの間にFがありますが、これはFirm(ひきしまった)の頭文字を使っています」。
HBと2B、2012年に逆転
老舗鉛筆メーカー「トンボ鉛筆」(本社、東京都北区)では鉛筆の硬度別売り上げ比率は、1999年はHBが43%、2Bが22%、Bが21%でしたが、20年後の2019年には2Bが51%、HBが20%、Bが17%と首位が逆転しました(同社社内構成比)。
同社担当者によると、2B鉛筆がHBに追いつきそうな傾向が見え始めたのは2006年のこと。2009年までほぼ同数出荷が続き、2010年には完全に同数出荷に。そして2012年、2Bがわずかに上回り逆転。2013年と2014年は2Bが少しずつ上回り、現在に至ります。
HBはなぜ減ったのでしょうか? 同社担当者は2つの理由を教えてくれました。
1つは小学校による2B鉛筆の推奨です。「小学校入学時、学校からの通達は以前は『鉛筆を持ってきてください』だったのが、『濃いめの鉛筆を持ってきてください』という説明に変わりました。教育がよりていねいにされているようです」。
もう1つは、スマートフォンの登場です。「2007年にスマホが登場し、IT化も進み、文字を書かずにコミュニケーションが取れるようになりました。仕事など事務用のHB鉛筆が使われなくなりました」。
といっても2B鉛筆の売り上げが増えたわけではなく、構成比において2BがHBを上回っただけだそう。「2Bは学校で使うため堅調に売れますが、鉛筆全体ではHBの売り上げが激減しました」。
HB鉛筆じゃないとダメな場面も
小学校やオフィスなどで使用される機会が減ったHB鉛筆。このままでは消えてしまうのでしょうか。
同社担当者は「HB鉛筆は大学入学共通テストのマークシートやTOEICテストなどに指定されています。また、法務手続きなどの書類上で捺印や署名箇所を示す鉛筆書きの丸印はHB鉛筆が使われることが多いです」。HBの長所「何も書いてなかったかのようにきれいに消し去ることができる」が生かされているといいます。
「HB鉛筆は社会のお役に立っています。HBの消費本数は減っていますが、信頼感を担っています。今後も社会をしっかり守っていく存在だと思います」(同社担当者)
書道教室「字を濃く太く書くことが重要」
児童や小学生も多く通う書道教室の現状は。小学校教諭の経験もある「睦麗書道教室」(神戸市中央区)の書道家、睦麗さんに話を聞きました。
──やわらかい鉛筆とかたい鉛筆の特徴は。
「やわらかい鉛筆は字が濃く書ける。線の太い細いの強弱を出しやすい。小さい文字になると美しく書きにくくなります。一方、かたい鉛筆は字が薄い。線の強弱を出しにくい。小さい文字は書きやすいです」
(以下略)