昔は、今もそうかもしれないが、大学受験用に英文学の英和対訳本というのがよく使われていて、私の場合は多分長兄が使ったと思われるそれで、和文訳のところだけを読むのが小中学生のころの娯楽だった。それで読んだ中には「トワイス・トールド・テールズ」や「スケッチ・ブック」などがあり、前者の中の「人面の大岩」など、後で小学校国語教科書の中で再会して驚いたりしたものだ。また、「スケッチ・ブック」の中には「リップ・バン・ウィンクル」の話、「スリーピー・ホロー」の話などもあったと思う。もっとも、どちらの本に載っていた話かは混同しているかもしれない。少なくとも、日本の普通の小中学生は知らない話を、こうした英和対訳本で知っていたのは、年の離れた長兄を持つことのメリットだった。
さて、以上は前置きで、本題はここから。
そうした英和対訳本の一つに、「ダディ・ロング・レッグス」つまり、「あしながおじさん」があり、私が社会主義という思想に肯定的な気持ちを持ったきっかけが、あるいはこれかもしれないのである。「あしながおじさん」は児童書にも分類されるくらいだが、内容は必ずしもそうでもない。大人が読んでも十分以上に楽しい作品であり、児童書に分類されるのは、子供でも読める健全な娯楽性がある、というだけのことだ。実際、この作品の主人公は大学生であり、児童書の主人公とするには年齢が高すぎるだろう。
さて、また話がわき道に逸れた。この作品の中に出てくる社会主義の話である。
主人公ジュディを大学に進ませ、学ばせてくれる正体不明の慈善家が「あしながおじさん」だが、その正体がジャーヴィス・ペンドルトンという青年紳士である、というのは別にネタバレというほどでもないだろう。別に、ネタバレで話がつまらなくなる類の小説ではない。そのジャーヴィスに主人公のジュディは好意を持つのだが、彼についてジュディは「あしながおじさん」への手紙でこう書く。(それを読むのが実はジャーヴィス本人になるわけだ。)
Julia's mother says he's unbalanced. He is a Socialist--except, thank Heaven, he doesn't let his hair grow and wear red ties. She can't imagine where he picked up his queer ideas; the family have been Church of England for generations. He throws away his money on every sort of crazy reform, instead of spending it on such sensible things as yachts and automobiles and polo ponies. He does buy candy with it though! He sent Julia and me each a box for Christmas.
You know, I think I'll be a Socialist, too. You wouldn't mind, would you, Daddy? They're quite different from Anarchists; they don't believe in blowing people up. Probably I am one by rights; I belong to the proletariat. I haven't determined yet just which kind I am going to be. I will look into the subject over Sunday, and declare my principles in my next.
訳本が無いので(今持っているのは英語原文のものだけ。)私が適当に訳しておく。
「ジュリアのお母様は彼(ジャーヴィス)を偏向していると言っています。彼は社会主義者だと。幸いにも、髪を長く伸ばしたり赤いネクタイをつけていないだけで。いったい彼がどこでそんな妙な思想を拾ってきたものか、彼女には想像もできないのです。この一族は代々の英国国教徒ですから。彼(ジャーヴィス)はあらゆるキチガイじみた社会改革に自分の金を投げ出し、ヨットとか自動車とかポロ用の子馬だとかに金を使うという(金持ちにふさわしい)思慮深いことをまったくしないのです。でも、彼は御自分のお金をキャンディに使ったりもするのですよ。ジュリアと私はそれぞれ一箱ずつ、彼からのクリスマスプレゼントとして貰ったのです。
ご想像のとおり、私もたぶん社会主義者になると思います。お気になさいませんよね。それとも、おじさま、気になさいます? 社会主義者と無政府主義者はまったく違います。彼らは人々を爆弾で吹っ飛ばしたりはしませんわ。たぶん、私はプロレタリアート(無産者階級)として生まれついた権利からしても社会主義者になるべきでしょう。私はまだどういう方向に進むか心を決めてはいません。この問題を次の日曜日にじっくり考えて、次の手紙で私の方針を宣言したいと思います。」
で、その「宣言」が次のものである。
Dear Comrade,
Hooray! I am a Fabian.
That's a Socialist who is willing to wait. We don't want the social revolution to come tomorrow morning; it would be upsetting. We want it to come gradually in the distant future, when we shall all be prepared and able to sustain the shock.
In the meantime we must be geting ready, by instituting industrial, educational and orphan asylum reforms.
Yours, with fraternal love,
Judy
(親愛なる同志よ
万歳!私はフェビアン主義者です。
これは喜んで待つという主義の社会主義です。我々は社会革命が明日の朝起こることを望みません。それでは大混乱になるでしょう。我々は社会改革がゆっくりと進み、遠い将来に、革命に対する準備が整い、衝撃に耐えられるようになった時に革命(根本的社会改革)が起こることを望みます。
当面は、我々はそれに備えて産業を興し、教育や孤児院の改革を行っていくべきでしょう。
友愛をこめて
あなたのジュディより)
さて、以上は前置きで、本題はここから。
そうした英和対訳本の一つに、「ダディ・ロング・レッグス」つまり、「あしながおじさん」があり、私が社会主義という思想に肯定的な気持ちを持ったきっかけが、あるいはこれかもしれないのである。「あしながおじさん」は児童書にも分類されるくらいだが、内容は必ずしもそうでもない。大人が読んでも十分以上に楽しい作品であり、児童書に分類されるのは、子供でも読める健全な娯楽性がある、というだけのことだ。実際、この作品の主人公は大学生であり、児童書の主人公とするには年齢が高すぎるだろう。
さて、また話がわき道に逸れた。この作品の中に出てくる社会主義の話である。
主人公ジュディを大学に進ませ、学ばせてくれる正体不明の慈善家が「あしながおじさん」だが、その正体がジャーヴィス・ペンドルトンという青年紳士である、というのは別にネタバレというほどでもないだろう。別に、ネタバレで話がつまらなくなる類の小説ではない。そのジャーヴィスに主人公のジュディは好意を持つのだが、彼についてジュディは「あしながおじさん」への手紙でこう書く。(それを読むのが実はジャーヴィス本人になるわけだ。)
Julia's mother says he's unbalanced. He is a Socialist--except, thank Heaven, he doesn't let his hair grow and wear red ties. She can't imagine where he picked up his queer ideas; the family have been Church of England for generations. He throws away his money on every sort of crazy reform, instead of spending it on such sensible things as yachts and automobiles and polo ponies. He does buy candy with it though! He sent Julia and me each a box for Christmas.
You know, I think I'll be a Socialist, too. You wouldn't mind, would you, Daddy? They're quite different from Anarchists; they don't believe in blowing people up. Probably I am one by rights; I belong to the proletariat. I haven't determined yet just which kind I am going to be. I will look into the subject over Sunday, and declare my principles in my next.
訳本が無いので(今持っているのは英語原文のものだけ。)私が適当に訳しておく。
「ジュリアのお母様は彼(ジャーヴィス)を偏向していると言っています。彼は社会主義者だと。幸いにも、髪を長く伸ばしたり赤いネクタイをつけていないだけで。いったい彼がどこでそんな妙な思想を拾ってきたものか、彼女には想像もできないのです。この一族は代々の英国国教徒ですから。彼(ジャーヴィス)はあらゆるキチガイじみた社会改革に自分の金を投げ出し、ヨットとか自動車とかポロ用の子馬だとかに金を使うという(金持ちにふさわしい)思慮深いことをまったくしないのです。でも、彼は御自分のお金をキャンディに使ったりもするのですよ。ジュリアと私はそれぞれ一箱ずつ、彼からのクリスマスプレゼントとして貰ったのです。
ご想像のとおり、私もたぶん社会主義者になると思います。お気になさいませんよね。それとも、おじさま、気になさいます? 社会主義者と無政府主義者はまったく違います。彼らは人々を爆弾で吹っ飛ばしたりはしませんわ。たぶん、私はプロレタリアート(無産者階級)として生まれついた権利からしても社会主義者になるべきでしょう。私はまだどういう方向に進むか心を決めてはいません。この問題を次の日曜日にじっくり考えて、次の手紙で私の方針を宣言したいと思います。」
で、その「宣言」が次のものである。
Dear Comrade,
Hooray! I am a Fabian.
That's a Socialist who is willing to wait. We don't want the social revolution to come tomorrow morning; it would be upsetting. We want it to come gradually in the distant future, when we shall all be prepared and able to sustain the shock.
In the meantime we must be geting ready, by instituting industrial, educational and orphan asylum reforms.
Yours, with fraternal love,
Judy
(親愛なる同志よ
万歳!私はフェビアン主義者です。
これは喜んで待つという主義の社会主義です。我々は社会革命が明日の朝起こることを望みません。それでは大混乱になるでしょう。我々は社会改革がゆっくりと進み、遠い将来に、革命に対する準備が整い、衝撃に耐えられるようになった時に革命(根本的社会改革)が起こることを望みます。
当面は、我々はそれに備えて産業を興し、教育や孤児院の改革を行っていくべきでしょう。
友愛をこめて
あなたのジュディより)
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