長年の介護疲れから、高齢の家族を殺害する事件が後を絶たない。
終わりが見えないことから「ゴールのないマラソン」「生き地獄」とも表現される過酷な介護生活。専門家は「独りで抱え込まず周囲や行政に相談を」と訴える。
「介護が終わるのは、その人が亡くなるとき。子育てのような達成感も明るい未来もない中で、24時間心身ともに休まらずに消耗し続ける生き地獄のような介護生活が続くと、そのむなしさと悲しさから鬱状態となるケースが少なくない」
NPO法人「心の健康相談室」(東京)代表で、心理カウンセラーの和田由里子さんは指摘する。自身も認知症の母親を介護した経験がある和田さんは「『長く生きて』という気持ちと、『早く死んで』という矛盾した気持ちの葛藤に悩まされた」と振り返る。
警察庁によると、「介護・看病疲れ」が動機の殺人事件(未遂を含む)は統計を取り始めた平成19年の30件から年々増加。22年の57件をピークに、その後も40~50件台で推移している。
介護問題に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)によると、介護殺人の加害者に共通する点は、(1)責任感が強く熱心に介護してきた人(2)仕事と思って手を抜くことができない男性が多い(3)親戚(しんせき)や介護サービスなどの支援を受けず孤立化した人-だという。
昨年12月、栃木県で11年以上介護した寝たきりの妻=当時(69)=を絞殺したとして今年5月に懲役3年6月の実刑判決を受けた70代の夫の裁判では、検察側が「ケアマネジャーに相談し、ショートステイや施設の利用を検討すべきだった。独り善がりの考えでストレスを抱え込んだ」と指摘。夫も「ケアマネジャーの人にもっと話しておけばよかった」と後悔した。
和田さんは「介護は独りで抱え込まず、各自治体にある地域包括支援センターなどに相談し、介護体制を整えることが重要」と強調する。結城教授は「介護サービスを受けたり、施設に預けたりすることは、恥ずかしいことではなく、当然のことという啓発をして社会全体に浸透させる必要がある」と指摘している。