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天国の鍵52

その五十二 ソクラトン

アンドレにお礼を言ってスオミラを後にし、ハンスたち四人はソクラトンの住む森に向かいました。
深い雪に埋もれた森の中にソクラトンの家はありました。チャックが言っていたとおり、黒い松の木がまわりに何本か生えている小さな家です。
 ハンスがドアをノックすると、中から「お入り」という声がしました。
 ドアを開けると、暖炉で暖めた部屋の奥に、長椅子に横になっている老人がいます。老人といっても、まだ五十歳くらいでしょうか、頭ははげて、獅子っ鼻で赤ら顔の、非常にたくましい男です。顔はかなり不細工ですが、風格があり、目に強い光があります。
 男はハンスたちに、さっさと戸をしめて中に入るように言いました。
「寒さは嫌いじゃないが、風邪はひきたくないからな。君たちも暖炉のそばにすわりなさい」
 ハンスたちは言われたとおりにしました。
「チャックもいっしょか。一体何の用かな」
「ソクラトンさん。天国の鍵がもう少しで見つかりそうなんです。あなたのところにサファイアはありますか?」
チャックが代表でソクラトンに言いました。
「サファイア? そんなものは持っとらんよ」
 アンドレの推理はいきなりおおはずれです。もっとも、アンドレはヘルメスの出没するところが必ずしもソクラトンのところだとは言っていませんでしたが。
「では、このへんに薔薇や百合や菫は生えてますか?」
「さあな、百合はあったが、薔薇はどうだったか。菫など気にとめたこともない。それに、今は冬で花などない」
 ハンスはソクラトンに、これまでのいきさつを話しました。もちろん、四つの詩もです。
 ソクラトンは面白そうにその話を聞いていましたが、ハンスの話が終わると、首を横に振りました。
「そのアンドレという男は、賢いが哲学者ではないな。物事を物質的にとらえすぎとる。
ダマスコ薔薇は知恵の象徴、百合は道徳の象徴、紫の愛の花はそのまま愛の象徴であろう。
叡智の森とは、我々の頭の中、心の中のことだ。そしてそこは常に無知の影がおおっている。赤い太陽が真理を表し、その真理に照らされて我々の生は黄金の流れとなるのだ。そして、真理に生きるものの生命は永遠だが、純潔貞潔な心を保ちつづけることは容易ではない、ということだ」
ソクラトンはあっさりと詩の謎解きをしました。
「では、竜のいる七つの噴水のある庭とは何のことです?」
チャックが聞きました。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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