【ロンドン=黄田和宏】アイルランド政府は2日、閣議を開き、同国による米アップルへの税優遇措置を違法とした欧州連合(EU)の欧州委員会の判断を不服として、欧州司法裁判所に提訴することを決めた。欧州委の判断を受け入れた場合、今後の企業誘致などでアイルランドの求心力が失われると判断した。
欧州委は8月30日、アップルが米国とアイルランドの税法の違いなどを利用して、子会社を経由した取引で大幅に税負担を免れたことを違法だと認定。アイルランドが最大で130億ユーロ(約1兆5100億円)の税優遇を与えたとして、滞納分や利息を追徴課税するように指示した。
アイルランドのヌーナン財務相はこれに対して「まったく意見が合わない」との声明を出してすぐさま反論し、違法性はないとして裁判所に提訴する考えを示していた。
アイルランドは与党の統一アイルランド党が過半数の議席を持たない少数与党政権で、無所属議員らが当初、提訴に慎重な意見を示し、8月31日の閣議では意見が一致せず判断を見送った。その後の説得工作もあり、2日の閣議で欧州委の判断を受け入れないことを決定。来週にも議会で提訴が承認される見通しだ。
欧州委は昨年10月にも、オランダ政府による米スターバックスへの税優遇と、ルクセンブルクによる欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズに対する措置を違法と判断し、両政府ともこれを不服として欧州司法裁判所に提訴している。結論が出るには時間がかかる見通しで、アップルについても最終判断にはある程度の期間を要しそうだ。
アイルランドの国内世論は揺れている。巨額の滞納税は年間の健康保険予算に相当し、欧州債務危機以降、財政再建を進めてきたアイルランドにとっては、予期しない税収増となるためだ。
一方、EU最低水準の12.5%という法人税率や、英語圏でビジネスがしやすいことを売りに企業誘致を促してきたため、こうした魅力が失われれば企業の国外流出を招くとの警戒感もある。
アップルも今回の判断を不服として、訴える方針を表明している。クック最高経営責任者(CEO)は1日、アイルランドの放送局のインタビューで、海外事業で稼いだ米国外で保有する多額の現金について、来年以降「米国に還元する」との考えを示している。税金の徴収を巡って、米国とEUの間で、対立が深まる可能性もある。