強度の高い木材
メリーランド大学の研究チームが開発したのは、通常の木材の強度を23倍近くも上昇させる加工方法です。
これによって、これまで木材ではできなかったさまざまなことが可能になりました。
まず、研究チームが例として示しているのが、木製のナイフです。
プラスチックや木製の食器はいろいろありますが、ナイフについては使いづらい印象が拭えません。
その理由は、素材としての強度が足りないために、切れ味が悪いという点にあるでしょう。
しかし、今回開発された強度の高い木製のナイフは、ミディアムのステーキでもらくらくと切り裂くことができ、スチールやセラミックなどのディナーナイフと同様に使用することができます。
これは使い捨て食器としても有望な材料となりますが、洗って何度でも再利用が可能で、長期的な使用でも切れ味も落ちないだけの強度があります。
さらに、この強度を増した木材は、スチール製の釘と同様に使用することも可能だといいます。
チームはこの木製の釘を、三枚の木板にハンマーで打ち付けるデモも作成していますが、釘は損傷することなく分厚い板を貫いています。
木製の釘は、スチール製の釘と異なり錆びる心配がありません。
今回開発された技術を使えば、ナイフや釘以外にも、将来的に傷や摩耗に強い床なども制作できる可能性があります。
では、チームは一体どうやって、木材の強度を大幅に強化したのでしょうか?
木材はもともと金属より硬い成分を持っている
木材はセルロースという天然の高分子化合物が主成分となって構成されています。
このセルロースは、セラミックや金属などの人工的に精製された材料よりも、実は密度に対する強度の比率は高いのですが、その潜在能力はほとんど発揮されていません。
その原因は、木材の占めるセルロースの割合が40~50%程度しかなく、残りはリグニンという植物を立たせるために固める役割を持つ材料でできているためです。
植物の道管などの組織はリグニンによって作られています。これが木材の強度を落とす原因の1つとなっているのです。
そこで今回の研究チームは、セルロースの構造を壊すことなく、木材の弱い成分だけを取り除くことはできないかと考えました。
そして、チームは二段階のプロセスで木材を加工する方法を生み出しました。
1段階目では、化学処理によって木材の部分的な脱リグニンを行います。
通常、木材は非常に硬いものですが、リグニンを除去すると、多少フニャフニャの柔らかい状態になります。
2段階目では、この処理された木材に圧力と熱を加えて高密度化し、水分を除去します。
最後にこれを加工して、目的に形に成形したら、素材の寿命を伸ばすためミネラルオイルでコーティングします。
セルロースは水分を吸収しやすい性質を持っています。
しかし、このコーティングをすることで、洗って何度でも再利用できる木製のナイフが作れるのです。
研究チームを率いたメリーランド大学のリー・テン(李腾)教授は、硬化させた木材の微細構造を顕微鏡によって調べ、その強度の理由について次のように説明しています。
「材料の強度は、材料が持つ空洞や溝などによって大幅に落ちてしまいます。
木材は本来、栄養分を運ぶための通路などがあるため、この強度を落とす空洞が非常に多いのです。
しかし、私たちが行った2段階の加工は、木材からこうした空洞をほとんど取り除きました」
この木材硬化プロセスは、金属などの人工素材の製造に比べてエネルギー効率が高く、環境へのダメージが少ない可能性があります。
確かなことを言うにはまだ分析が必要となりますが、セラミックの製造のような数千度の熱は必要なく、この加工では化学薬品に浸けた100度の加熱で十分です。
台所には、まな板、菜箸、麺棒など長く利用するさまざまな木製の道具があります。
そこに木製の包丁が加わる日も近いかもしれません。