なお、「粛軍」は「軍紀粛清」ではなく「軍の粛清」つまり、異分子排除のようだ。ここでは米軍にとっての異分子のようである。
「世に倦む」氏は文章でのカッコつけをやめて、分かりやすく書けばいいのに。論説的文章は「言いたいことを確実に伝える」のが第一義だろう。
(以下引用)「うしろみ」は、おそらく「後見」だろう。丸山真男の独自用語らしい。
だから、私は今回の出来事を粛軍事件と見る。目的は香田洋二と井上高志の排除である。それでは、誰が香田洋二を失脚させたのか。考えるまでもなく米軍CIAという答えになる。27日付の朝日新聞1面記事に重大な事実が書かれている。
この最後の部分、要するに米軍の配備や展開、作戦計画に関する情報が「特定秘密」で、これを井上高志が漏らし、香田洋二が得ていたことになる。確かに、これは自衛隊の実務中枢にアクセスしないと、香田洋二の顔だけでは外からは取れない情報だ。そしてまた、「陰の軍令部長」たる香田洋二には喉から手が出るほど欲しい情報。問題は、3月19日にこの漏洩が行われた直後、3月中に防衛省に通報があり、事案が発覚している点である。すぐに露顕してしまっている。そして、今回、井上高志が捜査で自供し書類送検までされたということは、その時点で漏洩の証拠を誰かに掴まれたことを意味する。おそらく、香田洋二が誰か(複数)にペラペラ喋ったのだろう。で、聞いた者が「それは特定秘密のはずなのに」となり、防衛省に密告したのだろう。
密告から今回の書類送検まで、約2年の時間が経っている。何があったのかを松本清張な思考回路と分析視角で推理しないといけない。上にも書いたとおり、香田洋二は海自のオーナー格で、現場組織に絶大な影響力があり、この程度の問題を誰かに密告されたところで、普通は握り潰されて済まされるところだ。香田洋二もそう考えていて、まさかこんな事件に発展するとは思ってなかったに違いない。また防衛省と官邸は、2年間も机の引き出しに溜めていたわけで、その気になればいつでも摘発できたのである。この謎解きは、やはり、ネットで喋々されているとおり、最近の香田洋二の発言に関わっていると思われる。「43兆円の防衛費は身の丈を超えている」とか、「砂糖の山にたかるアリ」という政府批判の発言が、黙過・容認されざるところとなったのだろう。
長い間、自衛隊の予算を増やせと言い、軍備拡張を唱えてきた右翼の香田洋二にも、現在の防衛政策の内容は不満なのであり、構想と計画が違うのだ。異議を唱えているのであり、オレの提言方向にしろと文句を言っているのである。今、台湾有事に向けての具体的計画が着々と決められている。武器の配備、艦隊の展開、部隊の運用が工程表に落とし込まれている。たぶん、その中身が香田洋二の考え方と違うのであり、香田洋二にすれば、オレの海自を勝手に動かすな、間違った作戦を組むなと言いたいのだろう。もっと言えば、オレを外すなと言いたいのかもしれない。香田洋二を外して誰が作戦を立案しているかと言えば、その主体は米軍CIAしかない。つまり、海自の戦力をフリーハンドで使いたい米軍にとって、外からあれこれ指図して口を出す香田洋二が邪魔になったのではないか。
もともと、特定秘密保護法の制定はアメリカが日本に要求してきたもので、米軍の情報が日本から外に漏れることを防ぐことが目的の第一だった。平和憲法体制下にあった日本にはこの制度はなかった。アメリカはそれを心配し、マスコミでの世論工作の絨毯爆撃の末に安倍晋三の政権下で強行成立させたのだが、その定着にずっとナーバスでいたのだろう。日本の場合、こんな感じで、組織の実権者・最高実力者が組織の外にいて「うしろみ」(=丸山真男の『政事の構造』)の機能を果たす。リモートコントロールする。権力の根源は情報だから、外から「うしろみ」が情報にアクセスに来る。「うしろみ」がアメリカの方針に忠実に従う者ならよいが、独立に意思を持ち、別の戦略を口出しするようになると、アメリカはそれを排除しなくてはいけない。
今回、こうして香田洋二を排除することで、アメリカは海自を自由自在にコントロールでき、台湾有事の手足として誰からも妨害されず使うことができるようになった。今回の事件は、アメリカによる自衛隊の粛軍であり見せしめだ。台湾有事を前にしての軍の粛清と権力の統制一元化だ。無論、それに手を貸した日本の軍国指導者たちがいる。