(以下引用)
歯止めの効かない高齢化・少子化を受けて、角田総理は全国に「高齢者特区」を建設し、介護医療の合理化を促進。85歳以上の「最後期高齢者」になると、そこで「人権カード」(言い方がストレートすぎる)を国に返還し、高齢者特区に(任意ではなく強制的に)入居しなければならない、という制度を作ります。
描かれるのは、その制度が作られてから20年か30年くらい経ち、制度が日常的に運用されるようになった時代。主人公は最後期高齢者となり、高齢者特区に入居した橘さん。
この高齢者特区、85歳で入居し、無償で介護サービスを受けられるのですが、ずっとここにいられるわけではありません。入居期間は5年。じゃあ5年を過ぎるとどうなるのか?
一つの道は「老人検定」を受けて合格すること。500問全問正解しないと合格しない、あまりにも高いハードルの試験ですが。
もう一つは「自死サービス」を受けること。つい先日、NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」が放送されて話題になったり、今回の参院選で「安楽死制度を考える会」という政党が各地で立候補してたり、世相リンク感がすごい。
そしてどのどちらにも当てはまらない場合は……。
人権(というか、あらゆる権利)を剥奪されて、施設から追い出されることになります。内容も恐ろしいけど、こういうことを業務的にさらっと言ってしまうのも恐ろしい。藤子F短編にも淡々とした怖さがありますけど、こちらはそれがさらに際立っている。
ちなみにこの作品、2018年に描かれただけあって、年金問題以外にもやたら世相を反映しています。
生産性……。世相リンク感がすごい。
老害憎悪……。世相リンク感がすごい。
高齢者特区に入居した橘さんは、倍率の高い老人検定に挑むことになるのですが、そこから先はどうなるのか……についてはぜひ作品で確かめてください。傑作と言って差し支えない短編なので。ただし、絶対に「むぐぐ……」という気持ちにはなると思いますが。