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「あなた」が徴兵を忌避できない理由

私を戦争へと押しやったのも、ほかならぬこの愛を渇望する心だったのだ。その戦争を私は間違ったものであり、おそらくは邪悪なものであると考えていたのに。大学では徹夜の平和集会に幾度も参加した。ジーン・マッカーシーの家を訪れ、学校の新聞に熱情的な論説を書いた。しかし卒業をして徴兵カードを受け取ったとき、あっという間もなく、昔ながらの悪魔が私の中で動き始めた。私はカナダに逃げることを考えた。刑務所に入ることも考えた。しかし結局のところ、私は自分がはじき出されるだろうという予測に耐えられなかった。私の家族から、私の友人たちから、私の祖国から、私の生まれ育った町から愛を失うかもしれない怯えのせいで、私は良心と正しさを犠牲にすることになった。
 このようなことは前にも書いた。でももう一度書かなくてはならない。私は卑怯ものだった。そしてヴェトナムに行った。

  (ティム・オブライエン「私の中のヴェトナム」村上春樹訳)








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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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