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気の赴くままにつれづれと。
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第七章 アルト・ナルシス
ナルシス卿と呼ばれた男が謁見室から出て来ると、控えの間にいた黒衣の男が頭を下げた。
「御用はお済みで?」
「ああ」
大股に歩くナルシスの後から、黒衣の男はちょこちょこと歩いていく。ナルシスという男もそう大柄ではないが、黒衣の男ははっきりと小柄である。その黒衣は、この国では聖職者が主に着るものだが、魔道士、あるいは魔法使いと呼ばれる者たちも着る。
魔道士や魔法使いは職業ではなく、生き方である。通常の人間には無い能力を追い求める生き方のことだ。
普通の人間の持たない不思議な力を持つ彼らは、世間の人間からは恐れられ、敬遠され、時には仕事を依頼された。その仕事は、失せ物の捜索、病気の治療、結婚や仕事の吉凶判断から憎む相手への呪いの依頼まである。
また、中には広い知識と異能力のゆえに権力者に重用される者もいる。この男もその一人で、サクリフィシスと言う。
彼の仕えているアルト・ナルシスはサントネージュ国王アメジストの兄、故アノンの息子で、この国の第四王位継承者である。いや、第三王位継承者の王妃ルビーが死んだ今は、第三王位継承者だ。第一順位のダイヤと第二順位のサファイアが行方不明の現在、ユラリア国の支配下にあるサントネージュの国王に彼が指名される可能性は高い。
「まだサファイアたちの行方は知れないか?」
アルトの質問にサクリフィシスは答える。
「村村に置いてある間者の連絡によれば、二日前にキダムを出たのがサファイア姫とダイヤ王子であるのは間違いないようです。お付きの者のうち一人は近衛兵のフェードラ、通称フォックスと言う女です」
「あのはねっかえりか」
「もう一人は、身長が2マートルほどの大男で、顔を包帯で包んだ謎の男です」
「身長が2マートルほどというと、さて、誰がいたかな。バルバス、ケンリック、モルゲンの三人とも処刑されたはずだ。後は、2マートルまではいかないが、ウジェーヌ、マリオンくらいか。だが、この二人は俺の手下だからな」
「はい、彼らが宿舎を離れてないことは確かめてあります」
「ふむ。まあ、いずれにしても、できることならセザールの手の者たちより先に、サファィヤ姫を捕まえてくれ」
「ダイヤ王子はいかがいたします?」
「殺せ」
「はっ。殺した証拠はどうしましょうか」
「いらん。お前がそれを確認すれば、それでよい」
再び頭を下げて、サクリフィシスは歩み去った。
アルトは自分の居室に戻った。この屋敷は彼の家で、そこを彼はオパール総督府として提供しているのである。そのうちもっともいい部屋二つはセザール王子とグレゴリオ王子の居室にしてある。そして自分は客間の一つで暮らしているのである。
ベッドの横の小さなテーブルに置いてある真鍮製の鈴を鳴らして小間使いを呼ぶと、茶を持ってくるように命じる。
縦長の窓が開いていて、そこから初夏の風が入ってくる。
庭の木の梢を渡ってくる爽やかな匂いの風だ。白い薄織のカーテンが揺れている。日の光がレースを抜けて絨毯の上に落ち、縞模様を作る。
「さて、これからあの邪魔者たちをどうするか。……セザールとグレゴリオを毒殺するのは容易だが、かと言って、あいつらが引きつれてきた軍勢はすぐには掌握はできないだろう。さてさて、難しい問題だが、それを考えるのも面白い。次の一手はどうする? アルト・ナルシスよ」
お茶を持ってきた小間使いは、主人が笑みを浮かべて窓の外を眺めているのを見て、その邪魔をしないようにお茶をテーブルの上に置いて静かに退室した。
第五章 旅宿にて
村の入口近くにあるその旅宿は、一階の裏が馬小屋、建物の一階が食堂、二階が宿室になっていた。
四人は馬を馬小屋に入れ、その世話を宿の者に頼むと、食堂で遅い夜食を取った。グエンは顔を白い布で包んで隠している。
「あんた、変な病気じゃないだろうな」
でっぷりと肥った宿の主人は、グエンを見てそうは言ったが、深くは追求しなかった。
鍋にぶつ切りの鶏肉や玉ねぎやエンドウ豆や人参や蕪をたっぷりと入れ、牛乳で煮込んだシチューは、四人にとっては久し振りの食事らしい食事であった。宮廷で出されたら手もつけないようなこの食事が、王女と王子にも、何にもまさる御馳走である。
フォックスは安いワインも頼んだ。もちろん、酔うほどに飲むつもりはない。
「グエンもどう?」
グエンは陶製のジョッキに注がれたワインの匂いを嗅いで、うなずいた。
あの顔の構造でジョッキの酒が飲めるかな、とフォックスは見ていたが、案外器用に、こぼさずに飲んでいる。よく見ると、舌ですくい取るようにして口に入れているようだ。それも非常に素早い。だから、注意して見ないと、普通にジョッキのへりに口をつけて飲んでいるように見える。
鶏肉は骨のままばりばり食べている。
(剣が無くても、あの牙があれば十分な戦闘能力があるんじゃないだろうか)
とフォックスは思ったが、もちろんそんな失礼なことは言わない。
宿屋にはほかに客もいなかったので、四人は、周りに注意しながらではあるが、話をすることもできた。
「グエンはどこから来たの?」
ダンの遠慮の無い問いに、グエンは首を横に振った。
「分からないってこと?」
今度は頷く。
こういう具合で、時間はかかるが、知りたいことを知ることはできる。
どうやら、この奇妙な虎頭の男は、今日突然にあの野原にいる自分自身を発見したらしい。
それを嘘だともありえないことだとも他の三人は思わなかった。
「魔法にかけられて、ここに飛ばされたんだね」
ダンのその言葉が自分の今の状況をもっとも的確に表しているとグエンは思った。
グエンはこの旅の道連れの三人がどんどん好きになっていた。
たった一人でこの世に突然現れた自分に、こうして話のできる相手ができたことは幸運だったのではないだろうか、と彼は考えた。一方、自分が彼らの危難を救ったことについてはもうすっかり忘れていた。弱い者が苦難に遭おうとしている時にそれを救うのは当然の行為である、というのが彼の心の自然な声だったのだ。その一方で、自分があの兵士たちを殺したことへの自責の気持ちはまったくなかった。あの連中は、このか弱い人々に危害を加えようとした。それを防ぐために相手を殺すのも、まったく当然の行為だと思えたのである。
話をするうちに、グエンの発声能力の程度も分かってきた。今は簡単な「はい」「いいえ」以外はぶつぎりに単語を言うだけで、文章化して言うのはむずかしいが、まったく発音できないわけではない。とりあえずは、「はい」「いいえ」を重ねるだけでも意思の疎通はできる。
そうであるから、グエンが自分の側の話をすることはあまりできなかったが、他の三人の話を聞いているのは彼には楽しかった。
それに、この三人の容姿は見ていて快い。フォックス、いやフローラは日焼けこそしているが、とても整った顔立ちだし、化粧をしたら美女に化けることもできるだろう。そしてソフィはというと、これはまったくの美少女、金髪で色白でサファイア・ブルーの大きな瞳の目が長い睫に縁取られた、絵に描いたようなお姫様である。もちろん今は、旅をするために男装をしており、髪も王宮を脱出する時に男の子に化けるためにうんと短く切ってあるが、それでも顔立ちの美しさは、教会の天使像のようだ。
(教会の天使像? 俺はそんなものを見たことがあるのか?)
グエンは自分の想起した言葉につまずいて、物思いの世界に入り込む。
(いったい、俺は何者なのだ。記憶を失うまでの俺はどこにいて、どのような暮らしをしていたのだ? 俺は一人身なのか、それとも妻がいたのか? ははは、こんな顔の俺に妻などいたはずはないか。だが、俺のいた世界では、俺のような顔の人間がふつうなのかもしれない。……虎の顔をした妻か!……)
グエンは暗鬱な気分になり、二杯目のワインを飲んだ。
「グエン、どうしたの?」
グエンの気分を察したようにダンが聞いた。
グエンは何でもないというように首を横に振って、ダンの肩を軽くポンポンと叩いた。
「さあ、明日は早いから、今日はそろそろ寝ましょう」
フローラの言葉で四人は立ち上がり、寝室に向かった。
四つの寝台のある部屋に入った四人のうち、ダンは疲れたらしく粗末な寝藁の寝台に入るとすぐに寝息を立て始めたが、他の3人はもう少しお互いの話をした。
とは言っても、話したのは主にフローラである。ソフィはうまく事情を説明できるほどの年齢ではない。グエンは言うまでもなく言葉が不自由だ。
「このお二人はサントネージュ国の王女と王子であることは、先ほど言いましたが、私は近衛隊隊員のフェードラ、通称フォックスです。
つい五日前、この国の国王は同盟国ユラリア国王を招いて、親睦のために共に狩りをしました。その時、ユラリア国の国王からサファイア姫をユラリア国の第一王子の妃に迎えたいという話が出ましたが、我が国王アメジスト様はそれをお断りになりました。なにぶんにもサファイア様はまだ若すぎるという理由からですが、本心は、ユラリアの第一王子セザール様は残忍な方だという評判を聞いていたからです。申し出を断られたユラリア国王のマライスはその晩、アメジスト様を暗殺したのです。それと同時に、国境に待たせていた大軍がサントネージュとの国境を越えて侵入し、首都オパールに迫りました。国王を失っては、軍隊を統率することもままならず、王妃のルビー様はご自分の死を覚悟してこの私にお子様たちを逃すようにお命じになったのです」
「うう……どこに……行く?」
「タイラス国は我が国と縁戚関係にありますから、そこを頼ろうかと思ってます」
こんな見ず知らずの人間(いや、人間なのかどうかも分からないが)にすべてを打ち明けていいものかどうかと思わないでもなかったが、じぶんが信頼できると判断した人間には隠し事をしない方がいい、とフェードラは決心したのである。
「あなたはどうします?」
「分か……ら……ない。お前たち……と……行く……?」
ソフィは彼の首すじに飛びついて抱擁した。
「ありがとう。あなたが一緒に来てくれて嬉しい!」
ソフィは自分がこのようなあからさまな感情表現をしたことに自分で驚いた。彼女が受けたしつけには無い行動である。虎頭の男はこの無邪気な行動に戸惑いながらも嬉しそうだ。
「まあ、まあ、ソフィ様。でも、私も本当に嬉しいですわ。あなたのような強い人が一緒にいてくれるなら、何も怖いものはない、という気分です」
グエンは頷いた。べつに謙遜することもない。自分が馬鹿馬鹿しく強いことは、すでに確信していた。
何はともあれ、やるべき事ができたのは、自分にとってはいい事だろう。自分の正体については、今すぐには分かりそうもないから、当面はこの三人のお守りをしながら旅をし、この世についての知識をだんだんと増やしていくのが賢明なようだ、と眠りにつきながらグエンは考えた。眠りの中に沈みながら、ソフィが彼に抱きついた時の本当に嬉しそうな顔を最後に思い出し、彼は微笑を浮かべた。
第六章 セザールとグレゴリオ
「虎の頭をした男だと?」
セザール王子は報告を受けて眉根に皺を寄せた。年の頃20代後半の大兵肥満の男だが、顔は日焼けして精悍だ。顔の下半分は鬚に覆われていて、年よりもふけて見える。その目は小さく残忍な光がある。全体に、王子らしくもなく、熊か猪めいた野獣性を感じさせる男だ。
「それは仮面をかぶっているのか?」
「わかりません。宿屋の主人の言葉では、二日前に10歳くらいの女の子と8歳くらいの男の子を連れた夫婦ものが宿泊し、出がけにその男に男の子が抱きついた拍子に顔の包帯がはずれて、虎の顔が見えたということです」
「虎の仮面の上から、さらに包帯をするというのも理屈に合わんな。かといって、虎の頭をした男がこの世にいるなどとは聞いたこともない。まあ、神話の中には半人半獣という奴もいるにはいるが。で、そいつらはどこへ向かった?」
「東の方角ですから、タイラス国かと思われます。あるいはトゥーラン国かもしれません」
「ふむ。分かった。下がってよい」
東方面の報告を終え、間者は退出した。
続いて、捜索隊の隊長からの報告がある。
「最初の捜索隊の兵士たちの死体が見つかりました。20人全員です」
「すべて死体で見つかったのか?」
「はい」
「場所は?」
「サルガスの野の街道沿いの小川に皆、投げ込まれていました」
「サントネージュの残党がまだあちこちに残っているというわけだな。オパールの町の兵士や将校は皆処刑したはずだな?」
「はっ」
「だが、庶民に身を変えているとも考えられる。ならば町の成年男子は皆殺しにするしかあるまい」
「しかし、それは……」
「何だ?」
「いえ、何でもありません」
「不服そうだな。だが、お前らの仲間が20人も殺されたのだぞ。これもサントネージュの残党がこの世にいるからだ」
「兄者」
と声を掛けたのは、窓の傍に立って室内のことには興味もなさそうに外を眺めていた男である。こちらはセザールの弟だろうが、兄とはまったく似ていない。おそらく母親が違うのだろう。中背で細身、白皙の顔に長い黒髪がかかっている。美男と言ってもいい容貌だが、兄と同様にその灰色の瞳にはどこか冷酷なものがある。窓から室内に向き直って、上座の椅子に座っているセザールに言う。
「敵国の男どもとはいえ、奴隷として使えば貴重な労働力です。むだに殺すことには賛成しかねますな」
「俺の言葉に逆らう気か、グレゴリオ?」
威圧するようなセザールの言葉に、グレゴリオと呼ばれた男は平然として答える。
「べつにあんたは王ではない。たまたまオパール総督を命じられただけのことだ。俺の主君でもない」
「ほう、その言葉、覚えておくがいい。俺が王位についた後、俺に膝まづいて俺の靴を舐めることになるぞ」
「そうなるのがあんたでないとも限らないがな」
セザールは立ち上がって剣を抜いた。
「ならば、今、決めてやろう。剣を抜け」
「御免こうむる。ゴリラ相手に力で勝負をする気はない」
「腰抜けめ」
セザールは床に唾を吐いた。
「それよりも、早くしないとサファイア姫とダイヤ王子が国外に脱出するぞ」
「国境は兵士たちに固めさせてある。それに、あんな子供たちが逃げたところで大した問題ではない」
「子供はいつまでも子供ではないさ」
「1万人にも足らぬ軍勢に首都を奪われるような腰抜け国の王子や姫に何ができる」
「俺は、その虎の頭をした男が気になるな。もしかしたら、その男が追跡隊20人を殺したのかもしれんぞ」
「馬鹿な! いかに豪勇無双な人間でも一人で20人が倒せるものか」
「一人でではないだろうが、もしもサントネージュ王妃から遺児を託された人間なら、相当の勇士だろう。会ってみたいものだな」
「そのうち、首だけになったそいつと対面させてやるさ。おい、いつまでそこにいる。さっさとその虎頭の男と一緒だという大人の女、女の子、男の子の4人連れをとっつかまえて来い。キダムの村から東の方面だ。抵抗するなら大人は殺してかまわん」
怒鳴りつけられて捜索隊隊長は飛び上がり、一礼して出て行った。
部下からの報告を受ける用が済んだので、セザールも謁見室となっているこの部屋から出て行った。おそらく食堂に酒を飲みに行ったのだろう。自分の居室で飲むよりも台所や食堂で飲むのが手っ取り早いというわけだ。
グレゴリオは窓辺にまだ立っていた。
「グレゴリオ様……」
声をかけられて振り向くと、予期した顔がそこにあった。
「何だ。ナルシス卿」
「もしも捜索隊が首尾よくサファイア姫を捕まえることができましたら、サファイア姫を私にいただきたいのですが」
「もらってどうする」
「妻にいたします」
「まだ十歳だと聞いているぞ」
「もちろん、結婚はまだ先のことですが」
「先物買いか。将来それほどの美人になる見込みがあるわけかな」
「はあ。まあ、そういうわけで」
「お前が国を裏切って、アメジスト国王暗殺の手引きをしたと知ったら、サファイア姫はお前をどう思うかな」
「それも一興でしょう。愛し合うばかりが夫婦ではないでしょうから」
「そういう退廃的な趣味は俺には分らん。まあ、サファイアをどうするかは、俺ではなく、あのゴリラの一存だろう。幸い、あのゴリラはデブの女が好きで、子供には興味はない」
「では、よしなに」
ナルシス卿と呼ばれた男は一礼して去った。
グレゴリオはこれまでサファイア姫には何の関心もなかったが、今の会話で少し興味が湧いてきたようである。
『はらぺこあおむし』をめぐる騒動が起こる2日前、私は、
《大阪にある日本一の高層ビルは「あべのハルカス」という名前だったのだな。春も終わったことだし、そろそろ「あべのカス」に名称変更したらどうだろうか。午後1:05 - 2021年6月7日》
という不出来なパロディまがいを発信した。
これに対する反応がなかなかビビッドだった。
6月17日の正午現在で、直接の返信(リプライ)が268件、引用付きRTが398件届いている。ざっと見て、内容的には8割が単純罵倒だ。つまり、500件ほどの罵詈雑言が押し寄せた勘定になる。
興味深いのはそれらの返信の内容だ。
一番多いのは
「おもんない」
というごく単純な感想だ。
たぶん、これだけで6割くらいになる。
これに
「センスない」
「面白いつもりなのか?」
「こういうネタを書いて得意になってる自分がみじめにならないのか?」
といった感じのツッコミが続く。
ほかには、
「ハルカスは春ではない。晴れるの意味だぞ。知らないのか」
「春が終わったら夏やろ」
式の理詰めの指摘や、
「阿倍野への地域差別なので通報しました」
「全大阪人を敵にまわしたな」
「近鉄に訴えられろ」
「近鉄本社にスクショ送っといたで」
という感じの恫喝が合わせて3割ほどあった。
意外だったのは
「安倍さんに失礼じゃないか」
という反論がほぼ見当たらなかったことだ。
書き手が暗示したそのままの読解に従って反応するのは、狙い通りすぎて不愉快だということなのかもしれない。
印象深いのは、
「おもんない」
という方言が、この分野では標準の言い方になっていることだ。
もうひとつ、笑いについてやたらと
「センス」
という言葉を持ち出したがる人々の存在も強く感じた。
彼らにとって
「お笑い」
は、そんなにごたいそうなものなのだろうか。
結論を述べるなら、私の「あべのハルカス」ネタは、たいして出来の良いパロディではなかった。このことは、私自身、よくわかっている。
しかし、問題は、単体のネタの出来不出来ではない。
私が憂慮せずにいられないのは、風刺、パロディのみならず、批判的な言説一般が、ひとっからげに全否定されつつある21世紀のこの国の空気だ。
おそろしいことに、私たちが暮らしているこの国では、どんな対象へのどんなタイプの言説であれ、「批判的」なスタンスから発言される言葉が、批判的であるというそのことを理由に総攻撃の対象になっている。
というのも、誰かをケナしたり、何かを批判したりするものの言い方は、内容がどうあれ、人として発言する際のマナーとして、根本的に
「失礼」
で、
「下品」
であると、即断されて、二度と顧みられないからだ。
「あいちトリエンナーレ」への、集団リンチの帰趨を昨年からの時系列で振り返ってみれば明らかな通り、21世紀のインターネットは、モグラ叩きみたいな調子で特定の対象を攻撃する際の自在な足場として機能している。
ここで重要なのは、リンチの被害者が特定少数の個人である一方で、リンチを主導しそれに参加しているのが不特定多数の匿名の顔無しである点だ。
要するに、危険に晒されているのは、むしろ批判者の側なのだ。
オールドメディア経由で発信される批判的言説は、それをネットメディア経由で受け取る無料購読者によって袋叩きにされる。
一方、リアルな社会で暮らす特定の個人による実名での批判は、ネット上に蟠踞する不特定多数の匿名のネット民によるバーチャルな手段を通じたリンチの対象になる。
つまり2つの異なった次元において、「批判的言説」および「批評的知性」は無効化されつつあるわけだ。
このことは、上位者への批判としての「風刺」がリンチの対象となる一方で、下位者への攻撃である「イジり」が、「お笑い」として共有されている現状をそのまま反映しているのだと思っている。
不愉快な結論になった。
こういう時にこそ、パロディが必要なのだが、自己パロディほどみじめなものはないので自粛しておく。
来週はもう少し体調が良くなっていると思う。そうなればこっちのものだ。
また来週。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
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