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高校生のための「世界地理」2

第三節 ロシア連邦


首都モスクワ 人口1億4723万人 人口密度9人/平方キロ


      国土、地形、気候


世界最大の国で、日本の45倍の面積がある。東側は中央シベリア平原から西シベリア低地に続き、ウラル山脈を境に首都モスクワを含む東ヨーロッパ平原が広がる。さらにその西はフィンランドなどの北欧諸国や、白ロシア、ウクライナを挟んでポーランド、ルーマニアなどに接している。東ヨーロッパ平原の南は黒海やカスピ海を挟んでトルコ、イラン、アフガニスタンにつながる。一般に寒冷な気候で、モスクワは年平均気温が4.9度C、もっとも暑い7月でも平均気温は18.2度Cでしかなく、1月の平均気温は-9.2度Cである。


      略史


 862年のスウェーデン・バイキングの侵略でできたノブドロゴ公国がロシアの起源という。13世紀にはモンゴルの侵攻でキプチャク汗国の支配下に入る。16世紀、イワン雷帝がツァーを名乗り、専制政治を行なう。1613年に始まるロマノフ朝は、1917年の三月革命で終わる。22年、世界初の社会主義国家が生まれる。レーニンの死後、独裁体制を固めたスターリンは、計画経済で後進国ソ連をアメリカと並ぶ経済大国にするが、その一方で反対者たちを粛清し、恐怖政治を行なう。やがて経済活動が複雑化するにつれて、計画経済は現場から遊離した不合理なものとなり、官僚主義の弊害もあってブレジネフの時代からソ連の生産活動は低下し、ゴルバチョフの時代にさまざまな改革が行なわれるが、どれも功を奏さず、1991年、ソビエト連邦は解体し、ゆるやかな国家連合体である独立国家共同体(CIS)が発足し、ロシア連邦がその中心となる。現在の大統領プーチンは、もとKGB(ソ連の秘密情報局)出身で、そのアメリカに対する妥協的態度は、かつてのソ連なら失脚確実だが、権力を維持しているのは、何かの秘密がありそうである。


      産業、経済


 社会主義経済によって生産手段が国有化され、1928年の第一次5ヵ年計画から1980年に終了した第10次5ヵ年計画まで、重工業中心の計画経済が行なわれてきた。しかし、そのために消費財生産が圧迫され、国民は苦しい生活を強いられてきた。さらにアメリカに対抗するために拡大してきた軍事費も政府財政を圧迫し、ゴルバチョフによるペレストロイカ(改革、立て直し)が図られたが、それも失敗してエリツィンに政権は渡った。エリツィンによる経済の自由化、市場経済への移行もうまくいかず、経済問題はロシアの最大の問題となっている。


 石油、石炭、天然ガスなどのエネルギー資源にも、鉄鉱石や銅鉱石などの鉱物資源にも恵まれており、適切な指導体制があれば、世界の経済大国に復帰できる可能性が高い。


 機械化された農業は、世界有数の生産高を持っている。水産業は、日本に次いで世界第二位の水揚げ。国土の5分の2を森林地帯が占め、木材伐採高は世界1。


      社会


 社会主義国家末期の失政で、国民の8割が貧困状態にある。ソ連邦を形成していた小国家群も独立の意思が強く、CISは常に分裂の危機にある。


 


第四節 イスラエル


首都エルサレム 人口565万人 人口密度278人/平方キロ


① 国土、地形、気候


 地中海の東に接する南北に細長い国で、レバノン、ヨルダン、エジプトなどに隣接する。


周辺地域との紛争の結果、国土拡大を続けており、国境は不定である。たとえば、シナイ半島はエジプトに属していたが、第三次中東戦争の敗北でイスラエルに領有され、79年の和平合意で再びエジプトに返還されている。


 北、中部は温暖な地中海性気候で、南部は乾燥した砂漠気候。


      略史


 19世紀末からユダヤ人国家建国運動(シオニズム)が起こったが、第一次世界大戦中のバルフォア宣言によって現イスラエルに建国する権利を手に入れたと称するユダヤ人たちが1948年、勝手に独立を宣言。もとからこの地に住んでいたパレスチナ人たちを追い出したため、以後アラブ世界との抗争が続くことになった。エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3宗教の聖地であり、アラブ人たちにとっては領土問題であると同時に宗教戦争でもある。テロ事件は日常的にあるが、中東戦争は4度起こっている。和平合意に達しようとする度にテロや暗殺事件が起きて和平は失敗に終わる。犯人不明のテロに関しては、イスラエルに対するテロでも真犯人がアラブだと即断しないほうがいいだろう。


      社会


 住民の8割がユダヤ人で、残りはアラブ系パレスチナ人。ただし、ユダヤ人とは「ユダヤ教を信ずる者」とか、「ユダヤ人ないしユダヤ教に改宗した者を母として持つ者」というあいまいな定義しかなく、実際には、人種的にはヨーロッパ系の民族がそのほとんどである。これらをアシュケナジー系ユダヤ人と言い、アラブ系ユダヤ人は社会的に下層に置かれている。


 日常的に戦争状態にあるイスラエルが国家として成り立つのは不思議であるが、その理由の一つは、海外からの資金援助である。たとえば、アメリカは、貿易赤字、財政赤字で膨大な借金を抱えているが、それにもかかわらず毎年30億ドル平均のイスラエルへの膨大な資金援助をしており、しかも近年はそれが借款ではなく贈与になっている。1949年以来1989年までの総計は、借款と贈与合わせて460億ドルという恐るべき金額であるが、これはもちろんアメリカ国民の税金から出ているわけである。(あるいは日本が買っている米国債から出ているわけである。)


 また、イスラエルの主要産業であるのはダイヤモンド加工業であるが、ダイヤモンドに手が出せるのはユダヤ人富豪グループだけであることから、イスラエルのスポンサーはそうしたユダヤ人富豪であると分かる。イスラエル人の庶民は、子供の頃からアラブ人との戦いを必然的なものと考え、戦いに駆り出されることが常態であるが、これもまた敵への憎しみを育てる「教育」の成果だろう。


 


第五節      中国(中華人民共和国)


首都北京 人口12億2774万人 人口密度128人/平方キロ


① 国土、地形、気候


 アジア大陸東側中央部全域を占める、面積では世界第3位の広大な国土。南はヒマラヤ山脈でアジア南部と区切られ、西はカラコルム山脈、テンシャン山脈で中東とさえぎられ、北はゴビ砂漠を間にモンゴルと接している。


 「南船北馬」と言われてきたように、南の地方には川や湖が多く、北は平野部が広がっている。内陸部は乾燥地帯が広がっている。気候は、冷帯から温帯、亜熱帯まである。


      略史


 紀元前3000年の黄河文明以来、5000年に渡る文明の地である。主な王朝は、殷、周、秦、漢、隋、唐、宋、元、明、清で、その間幾つかの国に分裂していた時代などもある。清の後が現在の中華民国である。清の時代に欧米諸国や日本の侵略を受け、老いた巨象のように食い荒らされたが、中華民国となってからは世界の大国の一つとして世界にその存在感を見せている。


 中華民国建国の際に、国民党が共産党との主導権争いに敗れて台湾に逃れ、そこに政府を置いたことで「二つの中国」を生じ、どちらに正統性があるかで世界を混乱させたが、現在でも中国は、台湾を自国の一部だと主張している。


      産業


 社会主義国家として、農牧業は人民公社を中心に集団生産を行い、工業は重工業中心に発展をはかってきたが、1978年の、農業・工業・国防・科学技術の「4つの近代化」という自由化政策、経済改革で資本主義国家に転換しつつある。


      社会


 沿岸部では経済特区を中心に工業化と資本主義化が進み、農業中心の内陸部との経済格差が広がっている。人口問題と食糧問題は中国につきまとう問題で、「一人っ子政策」で産児制限を行なってきたが、そのため日本以上の速さで高齢化社会が到来する可能性が高い。また、チベットやウィグルなど、辺境少数民族問題も難問である。毛沢東が政権の中心にいた時代に、「文化大革命」によって知識人が迫害され、中国の文化的伝統は死に絶えた。これは、秦の始皇帝の「焚書坑儒」の20世紀版である。


 日本にとっては、漢字という素晴らしい文化を貰った恩人の国であり、第二次世界大戦では迷惑をかけた相手でもあるのだが、右翼的人間(実は、ほとんどがアメリカの手下)には、「なぜか」中国嫌いが多い。最近、日本の親中国派の政治家が意味不明の事件で失脚することが多いのは、明らかにアメリカの意図によるものであろう。古い話だが、田中角栄の失脚は、彼がアメリカの頭越しに親中国的政策を取り、また、アメリカに依存しないエネルギーの入手先を求めていることがアメリカの逆鱗に触れたからであった。つまり、日本の総理大臣など、その程度の存在なのである。


 


第六節      日本


首都東京 人口1億2557万人 人口密度332人/平方キロ


① 自然


 北の端から南の端まで細長く伸びた列島。そのため、気候も多彩である。国土は狭く、その七割が山地のため、居住空間や農地面積が小さい。モンスーン気候のために水に恵まれている。


      人間社会


 古代王朝の時代から貴族政治、武家政治を経て1868年の明治維新で近代国家の仲間入りをする。しかし、第二次世界大戦の敗北でアメリカの占領下に置かれ、形式的な独立後も政治的にはアメリカの支配が続いている。


 戦後の経済発展で、アメリカをもしのぐ輸出国になったが、貿易黒字が国民生活の向上にほとんど役立たないという不思議な国である。産業面では中国や韓国、東南アジア諸国に追い上げられ、近いうちに追い越される可能性が高い。


 国民のほとんどが政治に不満をもちながら、国政選挙では常に保守政党が勝つという不思議な国である。まあ、この国の野党の評価がそれほど低いということだが。それに、野党とは言っても、そのほとんどは野党の隠れ蓑を着た与党分派にすぎない。


 国民の学歴水準は高いが、知的水準は低く、マッカーサーの名言によれば、日本人の精神年齢は十二歳であるということである。(今の十二歳は、大方の大人より知的水準が高いのではないかと思うのだが。)大人でも政治的関心が低く、社会事象についての判断力は小学生レベルの人間が多い。学校教育が、こうした家畜的人間を作るのに大いに役立っている。その意味では理想的にコントロールされた社会である。


 世間体を気にし、家族への影響を重視する国民性があり、自ら欲望を制限する傾向が強いため、犯罪の発生率は低いが、社会上層部の無道徳さを見習って、国民も無道徳になりつつある。


 


第七節      ドイツ(ドイツ連邦共和国)


首都ベルリン 人口8214万人 人口密度230人/平方キロ


① 自然


 北部の北ドイツ平原から中部の丘陵、南部は高原からアルプスへと続く。全体としては穏やかな大陸性気候で、冬が長く、年平均気温は9.4度C。


      人間社会


 9世紀のフランク王国分裂による東フランク王国に始まり、神聖ローマ帝国(ドイツの元首がローマ教皇から加冠されたため、そう名乗ったもので、本来のローマ帝国とは別。)つまり第一帝国の時代を経て、プロイセン王国を前身とする統一国家ドイツ帝国(第二帝国)の誕生、第一次世界大戦後に台頭したナチス(自称、第三帝国)支配の後、第二次世界大戦での敗北、東西ドイツへの分割、1990年のドイツ再統一へという歴史を持つ。


 東西ドイツの統一は、大量失業、増税の原因となり、また共産主義圏の崩壊によって東欧諸国からドイツに流入した難民、トルコからの移民などが社会問題となっている。しかし、欧州連合(EU)の中ではフランスと並ぶ指導的立場にあり、政治的な発言力は高い。


 世界有数の精密な工業技術を持ち、特に自動車ではBMW,ベンツ、フォルクスワーゲンなどは高く評価されている。日本のように量を売るよりも、質で勝負という性格である。


 すぐれた音楽家と哲学者、文学者を生み出した国だが、現在は世界の中での存在感が薄い。というより、日本のマスコミがアメリカ以外の国の文化的情報をほとんど伝えないのだが。


 


第八節 フランス(フランス共和国)


首都パリ 人口5862万人 人口密度108人/平方キロ


      自然


ヨーロッパ中央の広大な平野を占め、陸地の北から東回りにベルギー、ドイツ、スイス、イタリアと接し、地中海海岸部を経て南西部はピレネー山脈を境にスペインに接する。北部海岸は、狭いドーバー海峡を隔ててイギリスがあり、フランスは、昔からイギリス、ドイツとの間で戦争が多かった。全土の6割が平地かなだらかな丘陵地で、地味は肥沃。農業大国である。気候は、西・北部は西岸海洋性気候、東部は大陸性気候、南部は地中海性気候と変化に富む。


      人間社会


 フランク王国、西フランク王国、カペー朝、バロワ朝、ブルボン朝の後、フランス革命で共和制となり、その後ナポレオンの帝政、ブルボン朝復活、第2共和制、ナポレオン3世の帝政、第3共和制、第二次世界大戦後に第4共和制、58年にはドゴールによる第5共和制と、近代になってからは政治体制の変化が激しい。


 芸術と文化への理解が深く、国家的な保護を与えてきた。フランス料理やワインなどの食事も含め、生活そのものを楽しむ姿勢は、大人の国と言える。フランス革命のような急進性もあるが、政治的に困難な地理条件によって生まれた現実主義的思考のほうが強い。


 ドイツ同様に、現在はフランスについての文化的情報が少ないので、(要するに、現在のマスコミは、文化面では国内とアメリカの情報しか流さないのである。)フランスが現在どのような社会であるかは判然としない。


 


第八節      イラク(イラク共和国)


首都バグダッド 人口2222万人 人口密度51人/平方キロ


① 自然


 北はチグリス、ユーフラテスの二つの大河を含む平原、南は砂漠地帯である。南はサウジアラビア、西はシリア、北はトルコ、東はイランに接する。中東では水資源に恵まれた国であるが、亜熱帯性乾燥気候で、夏季にはほとんど降水がない。


② 人間社会


 古代にはメソポタミア文明が栄え、アケメネス朝ペルシア、ササン朝ペルシア、イスラム帝国の後、オスマン・トルコの支配、英国の委任統治を経て1932年、王国として独立、58年に共和制に移行。80年から88年には対イラン戦争があった。90年、フセイン大統領によるクウェート侵略は米国を中心とする国連軍によって阻止される。これが湾岸戦争である。2003年には、アメリカがイラクを「侵略」するが、一般的には、これはなぜか侵略とはされていない。二十年後の歴史では確実に侵略戦争と定義されるはず。


 湾岸戦争後の経済制裁で国民生活は窮乏を強いられているが、それまでは中東でもっとも豊かな国の一つであった。医療が無料で行なわれるなど、社会福祉にも目を向けた国でもあった。


 石油埋蔵量はサウジアラビアと並ぶとされており、アメリカのイラク侵略戦争の理由はそれだと考えるのが、一番納得がいく説明だろう。ただし、ブッシュ大統領は中東全体の「民主化」を叫んでおり、それは中東全体の「日本化」、つまりすべてをアメリカの支配化に置くということである。


 


第九節      イラン(イラン・イスラム共和国)


首都テヘラン 人口5773万人 人口密度38人/平方キロ


① 自然


 イラン高原を中心に、国土の半分が高原で、乾燥地が多い。大陸性気候で寒暑の差が大きい。


② 人間社会


 アケメネス朝ペルシア、ササン朝ペルシアの後、イスラム帝国、セルジュク=トルコ、チムールの支配下に置かれ、1500年サファビー朝、1906年に立憲君主制となり、35年に国名をイランに変更。79年、ホメイニを指導者として宗教を政治の指導原理とするイスラム革命が起こり、近隣諸国や欧米諸国に衝撃を与える。80年から88年にかけてイラクとの間に戦争が起こるが、それは「革命の輸出」を恐れた「米国の代理人」フセインがイランに仕掛けたものである。89年のホメイニの死後は、イランは穏健路線をとり、湾岸戦争時には中立の姿勢を取った。


 2005年現在、キリスト教国家によって、世界的にイスラム教への敵意を醸成するプロパガンダが行なわれている。おそらくそれは、イラク戦争の次に、イランやサウジアラビアへの戦争をするための布石である。


 


第十節      北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)


首都平壌(ピョンヤン) 人口2432万人 人口密度198人/平方キロ


① 自然


 朝鮮半島の付け根の部分、つまり北半分を占める。国土の半分は高原で、大陸性気候。1月の平均気温は-7.8度C。


    人間社会


1392年から1910年まで、李氏朝鮮による長い統治があったが、1910年、日本に併合される。45年、日本の敗戦に際し、朝鮮半島北部はソ連、南部は米国に軍事占領され、分断される。48年、ソ連、中国に支援された金日成によって朝鮮民主主義人民共和国が建国される。50年、朝鮮戦争勃発。53年休戦。67年から自主外交、自主経済の「主体思想」の方針を打ち出す。94年、金日成死去。息子の金正日が国家指導者の座を受け継ぐ。社会主義国家としては恥ずべき国家の世襲である。


国家元首への個人崇拝を強制し、それを利用して国民を統治していく愚劣な社会体制の国であり、国家指導者グループに国家経営能力が無いことは、現在隣国の韓国の14分の1以下の所得水準や、国民の間に広がる飢餓状態で示されている。日本との間には、日本人誘拐(拉致)事件という道義的な問題もあるが、しかし、原爆製造能力を持つと思われる相手であり、また、相手国民への人道的配慮も必要であり、理性的な対応が求められる。


 歴史的に日本が北朝鮮や韓国に与えてきた苦痛への謝罪を求められることに対し、右翼的人間たちはいらだち、逆に攻撃的な発言をして国家関係を悪化させている。過去の悪事は悪事として認めた上で、相手側の非も指摘し、友好的な関係を結ぶ努力をすることが、同じアジアの近隣国としての理性的な対応だろう。

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高校生のための「世界地理」1

古いフラッシュメモリーに納めてあった「高校生のための『現代世界』」の第二部、「世界地理」である。書いたのが2005年らしく、内容は今と異なるものもあり、また、もともと主観的であることを前提とした内容なのだが、今読んでもなかなか面白いので、ここに載せておく。本来は「徽宗皇帝のブログ」向きだが、あちらはなぜか現在、検索機能が機能していないので、ここに載せる。少なくとも、これを読めば、平均的高校生か、あるいは2005年の高校劣等生レベルの世界地理の教養が身に付くかもしれない。当時の私がプーチンに疑いの目を持っていたのもこの記事で分かるが、今はその正反対であるのは言うまでもない。まあ、要は、プーチンはアメリカと穏健な関係を維持したいということだったのだろう。

(以下引用)


第二部      世界地理


 


 地理というと、国土や山や川や海などの自然についての学問というイメージがあります。また、季節風や海流など、地学と重なる部分もありますが、私たちにとって本当に重要なのは、政治経済と結びついた地理です。なぜなら、政治経済は、私たちが生きていくための基盤だからです。これまでの地理が退屈な教科だった一番の理由は、我々の生活と無縁な、人間不在の、些末的知識の習得が強制されていたところにあります。


 ですから、これまでの地理を解体して、必要なところ、興味深いところだけを学ぶことにしましょう。たとえば、気候区分だとか地図の分類とか、村落や都市の形成の話は、かなり退屈です。ところが、地理のテキストの大半は、そうしたうんざりするような話を前に持ってきて、私たちが本当に知りたい世界の現実については後回しになっています。その順序を変えるだけでも地理は学びやすくなるでしょう。


 この本では、世界の現実を知るために必要な基礎知識としての地理だけをまとめます。それを土台として、後は自分で興味を持った部分をもっと調べ、あるいは他の本で大学受験などに必要な知識を補えば、それでいいのです。


 


第一章      人種・国家・国土


 


 初めに、クイズを出しましょう。キリストは白人でしょうか、黒人でしょうか、黄色人種でしょうか。


 我々のイメージするキリストは、西洋絵画に出てくる金髪碧眼の美青年です。しかし、キリストの生まれたのは、中東の、現在はイスラエル領土となっているエルサレムです。してみると、当時そこにいたのは、アラブ系住民か、北アフリカ系の住民だけだったはずです。キリストの肌色は黒褐色で、髪の色も目の色も黒く、場合によっては髪は縮れていたというのが、事実でしょう。キリストが白人であったというのは、我々が西洋文明の迷信的、あるいは意図的宣伝の伝統を疑問なく受け入れてきたからにすぎません。


 もう一つ、クイズです。イスラエルはどんな民族の国でしょうか。「もちろん、ユダヤ人の国さ!」ブ・ブー、はずれです。答えは、ヨーロッパ人の国です。人種的に言えば、イスラエルの住民の大半はヨーロッパ系人種であり、それをユダヤ人としているのは、「ユダヤ教を信じる者はユダヤ人だ」という名目にしかすぎません。本来の民族としてのユダヤ人は、中東のアラブ系民族ですから、白色人種ではありえません。紀元前に中東のユダヤ人がイスラエルを自分の物としていたからと言って、ヨーロッパ人がそこを自分の領土だと主張することは本当は不可能な話なのです。まあ、そんな大昔のことを盾に所有権を主張されたら、土地の所属問題は滅茶苦茶になるはずですが、政治の世界では、どんな無茶苦茶な理屈でもこじつけられるのです。政治の世界の原則は、「勝てば官軍」「力は正義なり」ですから。


 世界の人種は、大きく白人種、黒人種、黄色人種に分けられます。アメリカ・インディアンを赤色人種などと言うこともありますが、彼らはモンゴロイド、つまり我々と同じ黄色人種です。モンゴロイドはアジアと北米大陸を居住地域としていた人種です。黒人種は、アフリカを居住地域としていた民族で、人類の祖先はアフリカ人だと言われています。白人種はヨーロッパに居住していた人種です。これらの人種は黒人種から派生したというのも、一つの説でしかありません。あるいは、人類は最初から幾つかの種類に分かれて発生したのかもしれません。


 国土は国家の領有する領域で、「領土・領海・領空」の三つを含みます。領海は海岸線から12海里(1海里は1,850メートル)まで、経済水域(その範囲では優先的に漁業などの操業が認められる範囲)は200海里とされています。領空は、領土と領海の上空、大気圏内をさすと一般的にはされています。


 国家は国土と国民と政府の三つの要素からなり、独立国と非独立国に分かれます。独立国は、統治形式から分類すれば、(A)君主国[主権が君主にある国で、君主の地位は世襲されるのが普通です] と(B)共和国[主権在民の国。首長は選挙などで選ばれ、一定期間国政を担当します] に分かれます。非独立国の中には、形式的な主権は本国の主権者にあるが、自治が認められ、国際法上は独立国であるイギリス連邦自治領のカナダ、オーストラリア、ニュージーランドのような国もあります。


 国には、単一民族に近い国と、複数民族を抱える国があり、それぞれの国で民族同士の対立による民族問題があります。アメリカ、南アフリカ、チェコスロバキアなどはその代表であり、また、国の成立や国境をめぐって対立するイスラエル問題や、インド・パキスタン紛争などが長い間続いています。世界中でこの種の民族問題は無数にあり、国際政治の問題の大部分は民族問題と関連します。ところが、こうした紛争は、紛争当事者の双方に武器を売る武器商人たちにとっては飯の種であり、西欧諸大国は、一方では紛争解決に努力するようなポーズを見せながら、その一方では政治家の関係する軍需産業が金儲けをしているという裏の姿を持っているのです。つまり、戦いあう人々は、他人の金儲けのために互いに殺しあっているというのが現実です。


 武器商人だけでなく、軍隊そのもの(と言っても、最前線で戦う兵士たちではなくて、自分たちは安全な後方にいて勝手な作戦命令を下すお偉方のことですが)にとっても、世界が平和になれば軍事費は削減され、軍隊のリストラが行なわれますから、世界に日常的に危機があったほうがいいのです。だから、危機が無ければ危機を作り出す必要があります。世界の危機の多くはそうして意図的に作り出されたものです。


 世界を政治と地理の複合として見ることで、見えてくるものがあります。


 たとえば、アフガニスタンにはどのような政治的意味があるのでしょうか。なぜ、あのような貧しい国が何度も政治的紛争の舞台となってきたのでしょうか。もちろん、その意味は時代によっても違ってきます。まず、古い時代では、ヨーロッパからインドに至る途中に塞がるスライマン山脈とヒンズークシ山脈の境にあるカイバー峠が、山越えの要所だったことがあります。アレキサンダー大王が東征したときも、このカイバー(カイバル)峠を越えました。また、アフガニスタン自体の地理的な位置も重要です。というのは、ロシアや中国というアジア大陸の北部と、それらとはヒマラヤ山脈で区切られた、インドを中心とするアジア大陸南部、それに中東の西端(昔のペルシア、現在のイラン)の地理的な結節点がアフガニスタンなのです。ここを支配すれば、軍事的に全アジアに睨みを利かせることができるというのが、西欧各国がアフガニスタンにこだわる真の理由でしょう。仮に、ここにミサイル基地を作ったなら、ロシア、中国、インド、中近東諸国からヨーロッパまでが射程距離に入るでしょう。現在では、イギリスやアメリカの傀儡国家であるパキスタン(これは私の判断です。)とカスピ海油田を結ぶパイプラインを敷設する計画が進行中ですから、その意味でもアフガニスタンは重要です。これで、9・11事件の後、アメリカが意味不明のアフガニスタン爆撃をした理由も分かるでしょう。いったい、正体不明のテロリスト集団がある国にいるかもしれないという理由で、その国に爆撃をするなどという無茶な話があるでしょうか。しかし、その爆撃も、タリバン政権を破壊し、パイプラインを敷設するための基礎工事だと考えれば、成る程、と思います。それで死んだ人々は浮かばれませんが。


 


第二章      世界のエネルギー問題


 


エネルギーとは仕事をする能力のことで、未使用の力が物質などの形で存在しているものと考えればいいでしょう。もちろん、単なる位置も位置エネルギーを持っていますが、それはここでは無視します。エネルギーには、石油、石炭、天然ガスなど、燃焼によってエネルギーを得るものや、それ自体がエネルギーである水力、風力、地熱などの1次エネルギーと、1次エネルギーを変形して用いる電力などの2次エネルギーがあります。


現在の世界で最も重要なものは石油です。(石油は、安価で輸送が簡単であり、熱効率の高いエネルギー源であるだけでなく、プラスチックなど、現代社会に不可欠な製品の原料でもあります。)世界の石油埋蔵量のおよそ65パーセントは中東地域にあり、アメリカの石油埋蔵量は世界のおよそ3パーセント弱にしかすぎません。しかも、石油消費量では、アメリカは1国で世界の25パーセント程度を消費しています。(我が日本は世界第二位の石油輸入国で、世界の石油生産の7パーセントを消費しています。)アメリカは高度消費社会であり、その社会は石油の大量消費によって成り立っているのです。このまま行くと、アメリカは、あと10年以内に国内の石油をすべて使い尽くすことになります。そのことにおそらくアメリカは強い危機感を持っているはずです。


アメリカの石油消費量の異常な高さは、アメリカが自動車依存社会であることに原因があります。アメリカでは鉄道は貨物輸送手段として使われ、人間の移動手段にはほとんど自動車しか使いません。毎年のように新型車が生産され、数年で買い換えられ、日常的にガソリンを購入する自動車の方が、鉄道よりは消費を促すため、一部資本家や政治家の策謀で(そのために、鉄道を買収したあとでそれを潰すことを繰り返し、鉄道網を発達させなかったのです。)アメリカは自動車社会になってきたのですが、アメリカ人自体が自動車が好きでしょうがないという体質になっているので、この状態は変わることはないでしょう。ちなみに、1989年度調べの鉄道輸送量は、日本が3,688億人キロであるのに対し、アメリカはわずかに94億人キロでしかありません。(人キロは、1人を1キロ輸送することです。)いかにアメリカ人が交通手段として鉄道を使っていないかがわかります。


世界の石油は、かつてはメジャーと呼ばれる国際石油資本(資本とは、企業と同じだと思ってください。)によって支配されていましたが、メジャーに対抗して1957年に発足した石油輸出国機構(OPEC)や、そこから南米のベネズエラを外したアラブ石油輸出国機構(OAPEC)が現在は中東の原油価格や原油生産量を決定しているため、先進諸国は産業の首根っこをつかまれたような状態でした。その状態を変えようとして起こされたのが1991年の湾岸戦争でしょう。表向きはイラクのクウェート侵攻への対抗として起こされた戦争ですが、その結果は、アメリカ軍のサウジアラビア常駐というものです。つまり、アラブ諸国は、アラブ世界の中に、イスラエルという、仮面をかぶったヨーロッパ国と、世界最強のアメリカの軍隊の二つを抱えることになったわけです。これは、自分の国の中に米軍基地を持つ日本と同じことで、中東産油諸国はアメリカに対し、反抗することはできなくなったわけです。つまり、湾岸戦争でアメリカは中東の石油の支配権を握ったわけです。イラクのフセイン大統領が、アメリカの代理人であったとしたら、湾岸戦争後にフセインの裁判や処刑を行なわなかったことに、合理的な説明がつきます。実際、クウェート侵攻前に、フセインはアメリカの許可を取っていたと言われています。


2003年のイラク戦争は、子ブッシュによる、親ブッシュのやり残したことの総仕上げ、アメリカの世界支配の完成ということになります。


ある事情通によれば、この戦争の真の原因は、マスコミに流された「イラクの大量破壊兵器」云々といういい加減な理由ではなく、フセインがアメリカに反旗を翻し、石油代金の支払いをドル建てからユーロ建てにしようとしたことだそうです。これも十分にうなずける考えです。つまり、ドル建ての支払いなら、いくらでもドルを印刷して渡せばいいわけで、アメリカは印刷機を回すだけでいくらでも石油が使い放題だったのが、これで危なくなったわけです。あるいは、単にイラクの石油が欲しかっただけかもしれません。アメリカが、フセイン大統領を捕獲したあとも、フセインへの裁判も何も行わないのは、それをやれば、フセインがもともとはアメリカの代理人であったことなど、アメリカにとって都合の悪いさまざまな事実が出てくるからでしょう。彼を裁くとしても、秘密の軍事裁判でしか裁けないはずです。あるいは、監獄の中で原因不明の急死をするか、アメリカから金を貰って南米にでも逃げて、優雅な老後を過ごすか。


9.11事件以後にアメリカが戦争をする口実にしているアルカイダとかいう、その存在すらはっきりしないテロ組織など、アメリカの世界戦略のためのダミー以外の何物でもありません。いや、アルカイダ自体が、もしかしたらCIAの指示で動いている可能性もあります。世界のマスコミは、世界政治支配層によってコントロールされていますから、マスコミから正しい情報を得ることは、ほとんど不可能でしょう。しかし、合理性というレンズを通して見れば、政治現象に対する正しい「解釈」も可能です。


現代の世界では、産業はエネルギーによって動いているわけですから、世界の政治経済の目的の一つは、資源とエネルギーの争奪にあります。そのような視点で眺めた時、意味不明の政治的行動も、意図が見えてくるでしょう。もちろん、これらの「解釈」は私の妄想かもしれません。でも、世界政治を推理するのは、政治を無味乾燥なものとしてまったく興味を持たないのに比べれば、ずっと楽しく、有益だと思います。間違えば、修正すればいいだけのことです。


石油と並ぶエネルギーとして原子力エネルギーがありますが、世界の大勢は原子力を使わない方向に向かっています。その理由は、核分裂や核融合のコントロールは非常に難しく、いったん事故が起こった時の被害が巨大であること、また、核廃棄物の放射能は強い毒性を持ちますが、その放射能は、半永久的に無くならないことなどがあります。つまり、核廃棄物の安全な処理方法は無いのです。(原子力発電所を「トイレの無い住宅」だと表現するのは、まったくもっともです。)


安価な石油が使える間は、原子力に頼る必要は無いということで、今の世界は石油に頼っていますが、その石油もおそらく今世紀中にはすべて無くなります。それまでに石油に代わる、安価で有効な新エネルギーを開発するのが世界の課題です。


 


第三章      世界の食糧事情


 


 先進国では家畜の飼料として穀物を用い、その肉を食糧にしますが、畜産物1カロリー分のためには5~7カロリーの穀物が必要だとされています。言葉を換えれば、先進国の人間は、後進国の人間の5倍から7倍のカロリーを無駄に消費しているのと同じだということです。


 先進国の人間が(ペットに至るまで)肥満に悩みダイエットにいそしんでいる間も、発展途上国では多くの人が慢性的なカロリー不足、たんぱく質不足の状態、つまり貧困と飢餓に苦しんでいます。自国内で商品作物を作って得た金で食糧を買おうにも、そうした作物はあまり高い金では売れません。(高い金で売ろうとしたら、先進国は、もっと貧しい他の国にその作物を作らせるだけのことです。)こうした状態を抜け出すには、鎖国でもして、自国内の食糧は自国内で作るという方向に持っていくのがいいのですが、そうした貧しい国でも上位階層の人間は商品作物の輸出で得た金を自分の物にしますから、今の状態を変えることはしません。


 アフリカでは、森林伐採、家畜の過放牧、降雨による土壌流出などのために進行した砂漠化と、人口増加や休閑期間の短縮による地力低下などのために食糧の自給はままならない状態です。それに、常に国際的な価格競争にさらされる商品作物の栽培は、それに携わる労働者の生活をけっして向上させるものではありません。


 日本は世界最大級の食糧輸入国で、その大半はアメリカからの輸入です。つまり、日本は政治的にも経済的にもアメリカに依存しており、その意向に逆らうことは実質的に不可能だということです。だから、日本の官僚や政治家が常にアメリカの意向を伺い、自分の意思で判断することはしないのも当然の話なのです。ただし、ここでいう経済的な依存とは生命を維持する上での依存の意味であって、金だけで考えれば、実はアメリカこそが日本に依存しているのですが、そのことは政治経済の項目で話しましょう。


 


第四章      世界と主要国


 


 さて、ここから世界の主要な国々についての各説になりますが、地理は空間的な教科ですから、文章だけで理解するのには限界があります。そこで、地図帳などを使ってイメージ的に把握しなければなりませんが、なるべく自分の手で略図を書くか、白地図に書き込むなどして、体で覚えるようにしてください。


 その前にまず全体的概念から。世界は大きく、七つの大陸(アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極)と四つの海(太平洋、大西洋、インド洋、北極海)からできています。アジア大陸とヨーロッパ大陸は一つにして、ユーラシア大陸と呼ぶこともあります。


 政治的には、イギリスと、(アメリカを含む)その旧植民地が現在の世界政治を実質的に動かしていると言えるでしょう。別の言い方をすれば、かつてイギリスを支配していた階級が、現在はアメリカをも支配し、イギリスの旧植民地や日本をも支配しているということです。ただし、真の支配者は歴史の表舞台に姿を現すことは無いでしょう。単なる一時的政権担当者にすぎない大統領や首相、あるいは国王が支配者なのではないということです。しかし、とりあえず、日本の政治を考えるなら、アメリカの意思が何かを考えればいいわけですから、ある意味では非常に分かりやすい面もあります。そして、アメリカの意思とは、アメリカ経済界の意思ですから、何がアメリカ経済支配層にとっての利益であるかを考えれば、政治の行方は見えてくるということです。


 地理は政治と経済の舞台、または土台です。地理を学ぶのは、政治経済について知るためだ、という根本を忘れることなく、多少は退屈な話にもつきあってください。(以下の記述は、些末的な事象が多いので、表記を簡略にするため文体を常体にします。)


 


第一節      アメリカ合衆国


 首都ワシントン 人口2億6784万人 人口密度29人/平方キロ 


① 国土、地形、気候


 世界第四位の面積の国土。北はカナダと接し、南はメキシコと接している。独立戦争の時を除いては自国領土を他国に攻められた経験はほとんどない。そのことが、戦争に対する無神経で傲慢な国民性を作っている。東西約4、300km,南北約2、200km。東西の長さのために東端のワシントンと西端のサンフランシスコやロサンゼルスでは約3時間の時差がある。(時差は、15度で1時間)


 東側海岸部に平野が広がり、中央には平原と砂漠地帯、西側には北にロッキー山脈とコロラド高原があり、西の海岸線にも狭い平野部がある。カリフォルニアなどの太平洋岸南部は地中海性気候。


      略史


 16世紀初頭、大西洋を越えて、ヨーロッパ人の渡来始まる。ワシントン・アーヴィングの「スケッチ・ブック」には、ハドソン川周辺のオランダ人入植者社会が描かれている。当時のニューアムステルダムが、後のニューヨークである。16世紀末、イギリス人が東部海岸に植民地を開き、南部のバージニアではイギリス貴族の投資によって煙草栽培のプランテーション農業が発達する。18世紀、本国イギリスの支配を嫌って独立戦争を始めた米植民地は、1776年、13州が独立する。(星条旗の13本の横線はこの13州を象徴)19世紀、奴隷制度に支えられたプランテーション農業にとって有利なイギリスとの間の自由貿易を望む南部は、北部で発達し始めた商工業保護のための保護貿易を望む北部と対立。南部諸州は合衆国を脱退し、アメリカ連邦を結成。南北戦争が始まる。この戦争を奴隷解放の戦争とするのは、勝者を美化しすぎている。1861~65年の5年間の戦争は、北部の勝利で終わる。南部を中心にこの時代を描いた小説が「風とともに去りぬ」である。南北戦争の後、多くの大陸横断鉄道の敷設によって西部開拓が進む。第一次、第二次世界大戦でいずれも勝者の側に属したアメリカは、20世紀の最強国として世界に君臨するが、日本や東南アジア諸国の経済発展によって産業の面では製品輸入国になり、巨額の貿易赤字と政府財政赤字に苦しむようになる。しかし、世界の機軸通貨であるドルの威力と軍事力をバックに、世界に対する有無を言わせぬ支配力を維持している。アメリカの一極支配を公然と世界に向かって宣言したブッシュドクトリン以後は、ただのゴロツキ国家である。


      産業・経済


 農牧業は、世界最大の生産量で、農産物の輸出大国。広大な土地を生かした粗放農業、単一耕作が中心。とうもろこし、小麦、大豆、果実、綿花、牛肉、豚肉などの生産が多い。


 工業は、大量生産方式によって世界の工業をリードしてきたが、近年は工業の花形の自動車工業で日本に負けている。カリフォルニア近くのシリコンヴァレーは、コンピュータ研究の中心。ハード機器の製作はアジア諸国に任せ、ソフト面で稼いでいる。ウィンドウズのマイクロソフト社がその代表。


 鉱産資源に恵まれた国だが、あまりに消費が大きいため、輸入大国である。


 軍需産業と政治が結びついた軍産複合体がアメリカの病根であり、アメリカの対外政策の異常さの多くはここに原因がある。


      社会


 銃の所持が許された社会で、毎年何万人もの人間が銃で死んでいるが、全米ライフル協会という強力な圧力団体のために、銃が規制されないようになっている。


 麻薬大国であり、CIA自体が麻薬を資金源としているという話は、信憑性が高い。麻薬犯罪の首謀者として「アメリカに」逮捕されたパナマのノリエガ将軍は、CIAの手下だった人間である。(その当時のCIA長官が現在のブッシュ大統領の父ブッシュ。そのブッシュが大統領としてノリエガ逮捕を命令し、その際、民間地区爆撃で大量の死者を出したことは、日本ではあまり知られていない)中南米の政変の多くでアメリカが糸を引いているのは公然の秘密。


 いわゆる人種のるつぼと呼ばれる多民族国家で、黒人、白人、アジア系移民、メキシコや南米からの移民など、さまざまである。黒人の大半は貧しい。また、かつてのアメリカの本来の所有者だったインディアンの多くはアルコール中毒か麻薬漬けにされている。世界でもっともユダヤ人が多い国で、政財界の主導的立場に立っている人間も多い。米国の親イスラエル政策には、このユダヤロビーの力が大きい。


 政治は、共和党と民主党の二大政党制で、共和党は産業界や金持ち優先政策が多く、中流以上の保守主義者に支持されており、民主党は福祉中心でやや革新的な政策が多く、貧困層や黒人の支持が多い。そのため、選挙の時には共和党によって、黒人が選挙に行けないようにさまざまな手段で妨害されることも多い。大統領選挙の集計自体が民間会社に委託されていると言うとんでもない国である。選挙の集計が信頼に値しないことは、2000年度と2004年度の大統領選で実証済み。


 政治経済的支配者たちは情報操作に長けており、新聞やテレビをうまく利用して自分たちに都合のいいように世論を誘導することが多い。したがって、アメリカのジャーナリズム経由のニュースは、日本の記者クラブ経由のニュースと同じことで、信頼に値しない。9・11事件以降、「愛国者法」などで、物の言えない最悪の社会になりつつある。


 一般的な教育水準はそれほど高くなく、文盲者も案外多い。スポーツマンが尊敬され、金持ちが尊敬され、自己主張が弱く競争を好まない人間は「負け犬」扱いされる社会である。離婚率が非常に高く、片親世帯が多い。レーガン時代以降、貧富の差は拡大する一方である。キリスト教信者が多い割には、殺人事件の多さ、モラルの低さ、富者の優遇など、もっとも非キリスト教的社会である。


 様々な欠点はあるが、第二次大戦後の日本にとっては精神的な父親であり、現代日本の風俗のほとんどはアメリカの影響を受けている。また、日本に民主主義を教えた恩人である。もっとも、その民主主義が本家のアメリカでも機能しているかどうか疑問だが。


 


第二節      イギリス(グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国)


首都ロンドン 人口5892万人 人口密度241人/平方キロ


① 国土、地形、気候


 ヨーロッパ大陸からドーバー海峡を隔てて西に位置する島国で、国土面積は日本のおよそ3分の2、ゆるやかな高地と丘陵が大部分を占め、冬温暖夏冷涼な西岸海洋性気候である。政治体制は、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドから成る立憲君主制の連合王国。


      略史


 先住民族ケルト人は、4世紀から5世紀のフン族の西進に伴うゲルマン民族の大移動でイギリスに渡ったアングル族、サクソン族によって支配され、イギリスはアングロ・サクソン人の島となった。(ケルト人は、日本のアイヌ民族のような存在である。)9世紀のノルマン人の侵略に対してはアルフレッド大王がアングロ・サクソン諸勢力をまとめて防いだが、11世紀にはデンマーク王クヌートがイギリスを支配下に置き、同じ11世紀にノルマンディー公ウィリアムがアングロ・サクソン勢力を征服してノルマン朝を開始した。彼を征服王ウィリアムと言う。(ノルマン人は、ロシアでもスラブ人を征服してヨーロッパによるロシア支配の起源となっている。)ノルマン朝は中央集権的性格が強い王朝だったが、それを継いだフランス出身のプランタジネット朝は、さらに集権的性格を強め、強大な王権のもとで貨幣経済が発達した。しかし、その3代目の国王ジョンは、ローマ教皇の破門への許しを乞うて献上した領土の回復のために貴族や都市への多額の課税を決めたため、それに反抗した貴族たちは同盟して国王にマグナ・カルタ(大憲章)を承認させた。これは、聖職者と貴族の会議の承認がなければ課税されないこと、法による手続きがなければ逮捕されないことなどを定めたもので、17世紀の「権利の請願」の際にイギリス人の歴史的権利の根拠とされ、議会の国王への抵抗の支柱となった。13世紀には、議会の原型ができ、17世紀にはピューリタン革命と名誉革命の二つによって国王の王権は著しく制限され、「国王は君臨すれども統治せず」という原則ができあがった。16世紀のスチュアート朝の国教強制に反撥した清教徒たちがアメリカに渡り、アメリカ植民地を形成し、やがて独立戦争によってイギリスはアメリカを失う。18世紀の産業革命で世界の工場となったイギリスは、原料と市場を求めて世界に植民地を広げ、近代の弱肉強食の国家間政治闘争の主役となる。以後は、近現代史の項目で書いたとおりである。


 イギリスという国自体は、現在では大国とは言えないが、その政治経済的支配者とアメリカの政治経済的支配者は重なっており、この両国は政治経済的には同一の国と見なすことができる。政治的面では、アングロサクソン民族とは、(一部の人間と民族全体を同一視するのはいけないことだが)要するに海賊であると考えれば間違いはない。


      産業・経済


 世界でもっとも早く工業化の進んだ国だが、二十世紀前半にアメリカに抜かれ、第二次世界大戦後はドイツやアジア諸国にも抜かれて工業面では斜陽化している。しかし、18世紀から19世紀にかけて世界から収奪し、蓄積された金融資本は、国を超えて活動しているため、イギリスという国は目に見えない形で世界経済を支配しているとも言える。たとえば、日本が日露戦争の際にイギリスから借りた金というのは、実はユダヤ人富豪ロスチャイルドの金である。その償還が行なわれたのは、昭和であるから、フランス革命の前の時代から現代に至るまで、一貫して歴史を動かしているのは一部の人間の持つ金であると言える。ロシア革命にもユダヤ人富豪が出資していることは、世間では知られていない。


また、南アフリカ(1961年、イギリス連邦離脱)は世界でもっとも貴金属資源に恵まれた国だが、その国を実質的に支配するのはイギリスであり、ユダヤ人資本である。世界のダイヤモンド市場を支配するデ・ビアスはユダヤ人の会社であり、世界の金価格は、幾人かのユダヤ系会社の代表が集まって勝手に決めているものである。


 もっとも、ユダヤ人とは何かという定義さえできないのだから、ここで言うユダヤ人とは、ナチスの人種差別政策の対象のような民族としてのユダヤ人ではなく、特定の富豪集団を言うと考えてもらいたい。ロスチャイルド、ロックフェラー、モルガンなどの世界的財閥が経済界の意思を主導し、政治を動かすと考えれば、真実に一番近いだろう。それらの富豪が対立関係にあるのか、協力関係にあるのかは、不明である。(私としては、ある一族が自分の正体を隠すために資本を分散しているという説を取るが。つまり、ロックフェラーもビル・ゲイツも、日本のIT成金たちも某一族のダミーであると考えている。この一族はイギリスやオランダなどのヨーロッパ旧王室をも支配していると思われるが、その支配関係は、あるいは逆かもしれない。)


 イギリスは石炭、石油を産出し、特に石油産出はヨーロッパ第一である。


 戦後しばらく社会主義的政策をとり、鉄鋼、電力、石炭、石油などの基幹産業が国営化されていたが、経営不振のためサッチャー時代に民営化転換が行なわれた。


 国土の4分の3が農地で、労働生産性、土地生産性ともすぐれているが、食糧の大半は輸入されている。


      社会


アメリカに劣らず貧富の差の激しい社会であり、貴族制度を残す階級社会でもある。世界に先駆けて議会制政治が発達した国、社会主義思想が形成された国でもあり、「揺り籠から墓場まで」の社会保障制度、福祉政策が発達したが、近年、福祉政策は大幅に退歩し、教育費も削減されて、社会全体がアメリカ的な「残酷な自由競争主義」に向かっている。


国民性は、他民族に対する収奪を何とも思わない残酷さと同時に、自分自身を冷静に眺めるユーモアを持ち、現実主義的である。生活の面では、あまり新奇なものを好まず、伝統的生活を楽しむ保守的傾向が強い。


隣国アイルランドは、1152年以来、長い間イギリスに支配されていたが、1922年にアイルランド自由国となり、1949年に完全独立した。しかし、イギリス統治下に残された北アイルランドでは、多数派のプロテスタント信者が少数派のカトリック信者を差別、迫害したため武力紛争を生じ、カトリックのIRA(アイルランド共和国軍)とプロテスタントのUDA(アルスター防衛軍)の抗争は現在まで続いている。アイルランドは貧しく、19世紀半ばの大飢饉で人口の3分の1に当たる160万人が移民として海外に渡ったが、そのほとんどはアメリカへの移民である。ところが、そのアメリカでもアイルランド人は差別され、警察官になるかギャングになった人間が多い。(警察や軍隊は、被差別階級が、唯一出世できる社会である。)


かつての植民地、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドは、イギリス国王を主君として戴く同君連合を形成している。


 


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高血圧治療など、現代医学への疑問が市民権を得てきたか

まあ、こうした記事はこれまで何度も書いてきたので耳タコかもしれないが、何度でも載せる。
と言いながら、実は私は降圧剤を服用している。これは、治療をしている医者と縁戚関係なので、治療をやめにくいという点と、血統的に脳梗塞や脳溢血の多い家系なので、高血圧を放置することにやはり恐怖感があるためだ。
だが、毎朝散歩をしているうちに体重が8キロくらいも落ち、そのためか血圧が低めになってきた上、この前は明らかに低血圧症と思われる症状に見舞われたので、高血圧治療をやめるかどうか思案中だ。つまり、体質的に高血圧ではなくなっているのに、降圧剤を飲んだ結果が、低血圧症だったと思われるのである。
それに、前に降圧剤のために横紋筋融解症になったことがあるが、降圧剤というのは身体のタンパク質吸収能力を低下させるのか、下肢の衰えや寝起きの下肢筋肉痛が最近あるので、どうしたものか考慮中で、今のところ、2日ほど服用を停止している段階だ。まあ、人間モルモットである。それで何かの障害が出てきたら、(運よく命があれば)このブログで報告しよう。
それにしても、下の記事のような「現代医学(西洋医学:ロックフェラー医学)への疑問や批判」が公に出せるようになってきたのは、社会の進歩だろう。


(以下引用)

医学界にはびこる利益相反

中村 篤史/ナカムラクリニックさんのサイトより
https://note.com/nakamuraclinic/n/n709fa5ec1b5a
<転載開始>

副反応検討部会の委員14人中8人が、参考人6人中3人が、製薬会社から寄付金などを受け取っていた。つまり、関係者20人中11人が利益相反の状態にあった。


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Laughing Manさんのツイートから

製薬会社から金をもらいつつ、副反応の検討をしている。これでは、お金をくれる人への配慮が働いて、正当なジャッジはできない。これを利益相反といいます。



この手のデタラメは、医学界にしょっちゅう見受けられます。
たとえば、


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血圧の基準値は、かつて180/100でした。


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しかし現在の基準値は、140/90です。
こんな低い値を「高血圧」と決めてしまっては、日本人の大半が高血圧ということになる。
基準値を下げることで、健康な人を「患者」にできるから、医者は「血圧が高いですね、お薬出しておきますね」となる。製薬会社としては薬が売れて、笑いが止まらない。


日本高血圧学会という団体がある。理事長、副理事長が、製薬会社からどれほどのお金をもらっているか。「医療ガバナンス研究所」のホームページで調べてみよう。


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キーワードに該当する医師の名前を入力し、検索すると、各年度にいくらもらったのか、その内訳が出てくる。それを以下にまとめた。


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日本高血圧学会の理事長は、6年間で総額1億3千万円を受け取っていた。副理事長の2人は、それぞれ6千万円、4千万円だった。


高血圧の基準値を作る人たちが、製薬会社から多額の献金を受け取っている。ここでもやはり、利益相反です。
笑うのは、ルール策定者と製薬会社で、デタラメな基準値を押し付けられて健康を害するのは、我々国民です。


1980年代以前の医者は、「年齢プラス100を超えれば高血圧」という認識でした。70歳なら170以上、80歳なら180以上が高血圧という具合です。


人間は年をとればとるほど、血圧が高くなります。年をとるにつれ、血管の内壁にプラークが沈着し(動脈硬化)、血管が細く、固くなり、脳や末梢に血流が届きにくくなる。そこで体は、血圧を上げることで、脳などへの血流を確保しようとする。
つまり、高血圧とは、老化現象であり、かつ、適応現象です。


そういう生理を無視して、日本高血圧学会は、高齢者に対しても若年者に対しても、低い基準値を提示しました。ここにはエビデンスはありません。つまり、「投薬で基準値以下に保てば寿命が伸びる」みたいなデータは存在しない。というか、逆のデータならあります。
たとえば、血圧を下げると、認知機能が低下します。


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そもそも血圧を下げるのは何のためか?
脳卒中、心筋梗塞などを減らして、命を救うためです。
さて、降圧薬を飲むことで、脳梗塞が実際に減っているかどうか。


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70~85歳の高血圧患者329人につき、一方には降圧薬、もう一方にはプラセボを投与し、2年間追跡した。その結果、プラセボ群の5人が脳梗塞を発症し、降圧剤群では8人が脳梗塞を発症した。つまり、降圧剤を飲んだ群のほうが脳梗塞の発症が6割も増えていた。
なぜこんなことになったのか。降圧剤により血圧が低下することで、血の巡りが悪くなり、血液が固まりやすくなったせいだ。
さらに、この比較試験は癌の発症数も調べていた。プラセボ群で癌が2人、降圧剤群で9人が癌になった。やはり、降圧剤群のほうが癌が4.5倍多い。
降圧剤に発癌性がある可能性については、すでに別の研究で指摘されていたが、それが裏付けられた格好だ。


さらに、血圧を下げれば下げるほど、死亡率が上がります。


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65~85歳の高血圧患者4400人を対象として、彼らを「ゆるめ降圧群」(上160未満140以上になるよう調整)、「きつめ降圧」(上140未満になるよう調整)の2群に振り分けて、2年間追いかけた。その結果、総死亡数は、ゆるめ降圧群で42人、きつめ降圧群で54人となった。つまり、しっかり血圧を下げたほうが、死亡数が12人、率にして29%高かった


「血圧を下げるほど、ボケやすくなるし、死にやすくなる」というのが研究の示すところだけど、日本高血圧学会は血圧を下げることを推奨している。つまり、完全に国民を殺しにかかっているということです。
だいたい、日本高血圧学会の理事のみなさん自身、製薬会社がなぜこんなにたくさん金をくれるのか、その意味に気付かないはずがないと思うんだけど。


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「製薬会社71社が、日本の主要19医学会の理事352人に合計7億2000万円の講師謝礼を支払っていた。さらに、うち半分近い3億3千万を約1割の理事40人が受け取っていた」


コロナ騒動もそうだったけど、国民が真実に気付くことが大事です。
「医学会は製薬会社から巨額の金をもらって、基準値を作っているんだ」という事実を知るだけで、薬を飲む気がうせると思う。結果、自分の命を守ることにつながる。

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向精神薬は誰にとって有益か

記事内容自体は面白いが、いつもは書き方が非常に丁寧で親切なぽん酢さんらしくもなく、「専門用語」が説明抜きで使われているのが気持ち悪い。意図的にそうしていると思うのだが、どういう意図だろうか。下手に説明して揚げ足を取られたくないという自己防衛かもしれない。
文中の「ADL」とか、「抗精神薬と向精神薬」の違いなど、私には不明である。特に「抗精神薬」というのは初耳だ。まあ、「向精神薬」にしても、私は「精神病薬」の意味としか思っていないのだが。そして、向精神薬と麻薬の組成がほぼ同じだというのは世界の常識にすべきだと思う。
まあ、私が昔、或る精神病医から聞いたところでは「精神病は治らない」というのが事実らしい。だから薬で身体の活力を奪って周囲(家族や病院)にとって安全にする(下記記事の「ADLを落とす」、がそれだろうか)などしかできないのではないか。逆に言えば、精神科医に行くのは破滅の第一歩とも言えそうだ。もっとも、患者を精神病院に入れるのは、「その家族を救う」意味では有益だろう。
私の妄想だが、鬱の傾向がある人は、酒が飲めない人ではないか、と思う。まあ、酒が苦手な人も「訓練」で飲めるようになるのだから、酒を飲む練習をしてみたらどうか。ただし、飲酒習慣は長期的には体を悪化させるのは言うまでもない。気持ちのいいことはたいてい破滅のお隣さんだ。
どうでもいいことを付け加えると、「アル中で乱暴な詩人とは誰でしょう」。答えは、言うまでもなくアルチュール・ランボーだが、彼がアル中だったとか乱暴だったという事実は無いと思う。

(追記)「抗精神(病)薬」は「向精神薬」に含まれるようで、下の記事でそれを使い分ける意味はほとんど無さそうだ。つまり恰好つけかwww

抗精神病薬と向精神薬の違いは何ですか?
精神疾患と向精神薬疾患概要と治療薬のおさらい 向精神薬とは、中枢神経に作用し精神機能に影響を及ぼす薬物の総称で、抗うつ薬(主にうつ病の治療薬)、抗精神病薬(主に統合失調症の治療薬)、抗不安薬(主に神経症の治療薬)、睡眠薬(主に不眠症の治療薬)などがあります。


(以下「大摩邇」から引用)


うつ病の薬で死にかけた人の話

 


こんにちは!生チョコぽん酢です。

ある日、知らない携帯から着信があり、出てみると以前に搬送した家族の方でした。

あの後に急変しちゃって今別の病院にいるんですよ

とのことで、また転院することになったからぜひお願いしたいという内容です。

スケジュール的に対応が難しく、仕事自体はお断りしたのですが、その後の世間話で驚かされることになります。

この患者さんはとっても若い人で、私が搬送してそのまま入院になったのですが、何とそのすぐあとに入院先で中毒症状を起こし、三次救急病院に救急搬送されたとのこと。

かなり危ない状態だったみたいです。

精密検査の結果が驚きで、何と脳にリチウムが溜まっていた、とのこと。



リチウムをwikiで調べてみると次のような事が出てきます。

抜粋しますね。


リチウムは腐食性を有しており、高濃度のリチウム化合物に曝露されると肺水腫が引き起こされることがある。リチウムは覚醒剤を合成するためのバーチ還元における還元剤として利用されるため、一部の地域ではリチウム電池の販売が規制の対象となっている。また、リチウム電池は短絡によって急速に放電して過熱することで爆発が起こる危険性がある。

上記のようにリチウムは腐食性を有しているため、身体へのあらゆる接触を避けることが求められる[17]。水と激しく反応するために、リチウムは禁水性の物質とされている。よって、安全のためにナフサのような非反応性の化合物中に保管される[18]。粉末状のリチウム、もしくは多くの場合は塩基性であるリチウム化合物を吸入すると鼻や喉が刺激され、一方でより高濃度のリチウム(化合物)に曝されると肺水腫を引き起こすことがある[17]。

妊娠第1三半期の間にリチウムを摂取した女性の産む子どもにおいて、エブスタイン奇形が発生するリスクが増加するという報告があった[19][20]が、催奇形性を否定する調査結果もある[21]。


また、以前まで水爆(核兵器)の原料として使われていたとのことで、どう見ても好んで摂取するようなものではないように見えます。

では、何に含まれていたものかというと、なのですって。

鬱病の薬の1つに、炭酸リチウムがあります。

気分を安定させる効果があるということで、広く使われている薬のようです。

再びwikiから抜粋します(上記リンクと同ページ)。


炭酸リチウムが躁病に効果があることは、1949年にオーストラリアのジョン・ケイドによって発見された[125]。イギリスの大学の研究者らによるメタ分析では、他地域と比較し相対的にリチウム濃度が高い水道水の地域ほど、自殺率が低いことが明らかとなっている[126]。日本国内でも2006年、大分大学の調査にて、大分県下において同様の調査を行ったところ、リチウム濃度の高い水道水の地区では自殺率が下がることが判明され[127]、2022年には東京都の発表にて、「眼房水解析により、自殺者は非自殺死亡者よりリチウム濃度が低い」ことが発表されている[128]。 炭酸リチウムの抗躁薬としての効果は、神経伝達物質の遊離やリン脂質の代謝を抑制する作用などが関係していると考えられているが、いまだ解明されていない[124]。


これ、読んで笑ってしまいましたw


 


原理が未だに解明されていないのですって。

医学的根拠は、水道水に含まれているリチウム濃度が高い地域の自殺率が低かった、だけ。

自殺なんて地域性があるだろうし、時期にもよるだろうし、考慮されるべき要因はいくつもありますよね。

でも結果として、リチウムには精神を安定させる効果があるとのことで、今はこうして医薬品として広く服用されています。

本当にお薬の世界はいい加減というか、なんというか。

まぁ少し前までは、放射性物質をおもちゃにしたり、麻薬を風邪薬として処方していたり、

詳しくは以下の記事をご覧頂ければと思いますが、歴史を見ればさほど不思議なことではないから悲しいです。

 
ちなみにこの、薬としてのリチウム中毒について、厚労省から注意文が公開されていたのですが、

 


読んでみても、吐き気とか、手の震え程度の物で、この患者さんのように命に関わるような重篤な症状が見て取れません。


 


一体どれほどの過剰摂取をすればこうなるのだろうかと。



一応状況を整理しますと、入院中の出来事ですから、オーバードーズの心配はありませんよね。

薬は病院が管理していますから。

そしたらなぜ重篤なリチウム中毒になったのか?

いつ、それほどの過剰摂取をしたのか?みたいな。




服用する場合は血液検査で定期的に濃度を計測しているはずなので、少しずつ蓄積されていた線は薄く、


 


誰に飲まされたの?みたいな、なにやら、アヤシイ感じなのです。


まぁ、一命は取り留めたみたいだから良かったですが、かなりショックでした。

それにまだ心配事があって、統合失調症の方に出される抗精神薬は、ADLがスドーンと落ちることで有名で、

認知症で徘徊の対応がめんどくさいからと、とある病院では家族に無断で服用させており(統合失調症ではないのにADLを落とす目的で)、

問題になった事を実際にこの目で見てきましたが、その時に原告の医師の方から聞いたのは、抗精神薬で落ちたADLは元には戻らない、という事です。

精神病院近辺では、パーキンソン症状(例えば歩幅が極端に小さくなっている)やアカシジア(遅発性ジスキネジア)の方が散見できるわけですが、

病院内は寝たきりになった方がうじゃうじゃいるわけですね。

あれは精神病だからそうなったという事では無く、薬の副作用でなっていると言っても過言ではないと思います。

もちろん、そうした薬がなければ危険行動が伴うケースが多く、本人の苦痛や周りの影響を考えれば、こうした治療方法が間違いだとは私には言えませんが、それはそれ、これはこれ。

今回のリチウムは抗精神薬ではなく、向精神薬に分類されるものだと思うのですが、

それでも私としては、本当に元に戻るのか心配なわけです。

アルツハイマー型認知症の患者には、昔からアルミニウムが脳に溜まっているというのは有名ですが、治らない病気じゃないですか。

この患者さんは、色々ツライ思いをして鬱病を患っていただけなのに、こんなことに巻き込まれてしまい、本当に可愛そうで悲しくなります。


 



やはり抗精神薬に限らず、向精神薬系全般、ろくなものはないですね。

薬に頼らざるを得ない人もいるのは百も承知ですが、


 


アレがはびこっていると思われる現代では、このような摩訶不思議な落とし穴が至る所に存在しているのかもしれないし、


 


もし他意があるだとすると大問題ですし、どちらにしても怖い話です。

精神薬服用患者の突然死も多いですし。

いつの世も、自分の身は自分で守らなければいけません。

そして、麻薬にしろ精神薬にしろ「心が楽になる薬」には手を出さない方が賢明だと、私は思いました。


 


タバコですらやめるの大変ですからね・・・。

 
 

おわり


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殺人行為も「多様性」かwww

この話が本当なら、現代の子供の知能は高いというか、物事の本質を見抜く力があるなあ、という感じである。つまり、「理不尽な行為、独善的主張の免罪符としての『多様性』」であることを使ったいたずらだ。

(以下引用)

 【悲報】小学生の間で、「多様性!」と叫んでから相手を小突いて逃げる謎の遊びが流行ってしまう……

 

netasum

1: 名無しさん@おーぷん 24/04/20(土) 20:30:42 ID:akCQ 


3: 名無しさん@おーぷん 24/04/20(土) 20:31:01 ID:EOjf

4: 名無しさん@おーぷん 24/04/20(土) 20:31:18 ID:Vi5b
ワイらもやろうや

5: 名無しさん@おーぷん 24/04/20(土) 20:31:25 ID:akCQ 
>>4
多様性!

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新コロ殺人ワクチンのニューフェイス「レプリコンワクチン」準備中

「大摩邇」所載のナカムラクリニック氏(名前を覚えていないww)の記事の一部である。

(以下引用)


薬害エイズ事件では、当時の厚生大臣が謝罪したけれど、それは被害の規模が小さかったし、補償額もたかが知れてたから。
しかしコロナワクチンについて同様の対応なんて、できようはずがない。死者数、補償額が桁違いだから
つまり、彼らは謝罪しない。
あのワクチンが殺人ワクチンであったと認めていないのだから、当然、次なるコロナワクチンを認可することにも躊躇がない。

こうして、今、レプリコンワクチンの治験が着々と進んでいる。


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mRNAワクチン中止を求める国民連合のオンライン会議でにて。
「有効性が確認されたってことだけど、これ、何で評価してるかというと、抗体価が上がったこと。それだけだから。普通はね、ワクチンの有効性を評価するとなれば、ワクチン打った群とプラセボ打った群、一冬とか一定期間をおいて、両群の罹患率を評価する。それでワクチン群で罹患率が有意に低ければ有効って言える。あるいは、罹患したとしても重症化しにくかったとか。でも今回の治験はそんなの調べてない。ただ、抗体価が上がったっていう、それだけ。でもそれって、IgG4抗体という、単なるガラクタ抗体だから。有効でも何でもない。そんなので評価しても意味ないよってことは、もっとはっきり言うべきだと思う。
致死率の高い謎のウイルスが猛威を振るっていて緊急にワクチンが必要だ、みたいな状況なら、分からなくもない。治験を設定したいけど緊急だから抗体価だけを評価項目にしたっていうことなら。でも今全然そんな状況じゃないし。コロナなんて毒性下がってもはやただの風邪なんだから、重症化の評価もできない」

「こういう治験を組むにも、国民の8割が複数回接種してるから、未接種の人を治験者としてリクルートできないっていうのもあるだろうね。すでに接種済みで、かつ、こういう治験に参加するということは、少なくとも1,2回目で死ななかった人なので、生存者バイアスがある。
あと、抗原原罪ね。免疫系が反応できなくなっているだけで、それをワクチンの効果とは言えないし、ADEとかIgG4のこととか、問題だらけですよ。
治験をするのなら、我々が一番調べて欲しいのは、安全性です。レプリコンワクチンの成分が、きちんと分解されるのか。抗体の内容は、IgG4以外にどうなのか。そのあたりの不安を払拭しないと、治験の意味がありません」


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「みなさん、この論文をご存知ですか。ラルフ・バリックという人が書いたのですが、この人はファウチとも面識があって、界隈では「生物兵器とその解毒剤を作った科学者」と言われています。
論文の内容としては、コロナウイルスのようなプラス一本鎖RNAウイルスのRNAを増殖させるのは、RNAポリメラーゼ(レプリカーぜ)だけど、亜鉛と亜鉛イオノフォアはそれを失活させます。
亜鉛イオノフォアというのは、たとえば、エピガロカテキンやケルセチンです。だから、要するに、牡蠣を食べて、緑茶を飲んで、玉ねぎの皮を食べれば、レプリコンの解毒ができるということになります(笑)」

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「聖痕」6

(前書き)今回で、10年以上も前に書いた「聖痕」は終わりである。まあ、戦いそのものの予告編だ。私は軍事オタクではないので、この先は書けない。第二の大藪春彦が、この先を書いてくれないだろうかwww 月村了衛氏など、軍事に詳しそうだが。名前も「月光族」的だし。フィクションの上だけでも、月光仮面やセーラームーンの後を継ぎ、あの連中に「月に代わってお仕置きよ!」である。

なお、この話を実現不可能なテーマだと思っている人に、先ほど寝床で読んでいたバルザックの「暗黒事件」の一文を紹介する。作者バルザック自身の地の文での感想だ。

「裏切りということさえ無かったら、陰謀を企てることほど容易な仕事はないだろう」 




第十章 団結式


 


 レンタカーの返却もあり、俺は車を運転して高尾まで戻った。新宿に着いた時には、もう九時を過ぎていて、これから『P5』まで行くのも億劫だったので、電話で連絡して、武と明良は今日は戻らないということを、電話に出た冴湖に伝えた。


 翌日、俺が『P5』を訪ねると、純は俺に飛び掛らんばかりの剣幕だった。


「ちょっと、一体何なのよ。武たちが三日も帰らないなんて、何があったと言うの?」


 俺は、河口湖湖畔の家での話を、二人にした。


「あの静婆さんのお蔭で、とんだ騒動に巻き込まれちゃったわね」


純は冴湖を向いて言った。


「でも、こういうのは嫌いじゃないけどね。いつまでも、世間の目から隠れて生きるのもうんざりだし。で、この人の言っているのは、本当なんだよね?」


「ええ、本当よ。御免なさい。大事な事だから、心を読ませてもらったわ」


「いいですよ。俺も、そんな能力がほしいな」


「あまり楽しくない能力よ」


「じゃあ、オレたちも、ここでローゼンタールの調査をするんだ。どんな風にする?」


「本屋回りをして、資料を集めましょう。図書館だと、記録が残るから、まずいでしょうね。後は、インターネット喫茶を利用して、インターネットで調べるとか」


「よし、分かった。じゃあ、手分けして始めようか。オレは何がいいかな。本屋よりは、やっぱりインターネットかな」


「じゃあ、私が本屋回りをするわ。二郎さんは、図書館で、記録は残さないように、大事な部分だけ写真に撮ってきてくれるかしら」


「その前に、二人とも、変装して行動したほうがいい。鬘とメガネだけでも、かなり隠せるはずだ。特に、純君は、そんな派手な格好はダメだ」


「そっかあ。やっぱり、私、目立つもんねえ。じゃあ、思い切り、地味にしよう」


「それに、インターネット喫茶に長時間いると、怪しまれる可能性があるから、周囲の人間の心を読んで行動できる冴湖さんの方が、インターネット喫茶に行くほうがいい」


「あら、あたしは君(くん)で、何で冴湖はさん付けなの?」


「そりゃあ、まあ、キャラクターだ」


「どういうキャラクターよ」


「そんなの、どうでもいいでしょう。さあ、なるべく短い時間で、多くの情報を仕入れましょう。それに、お金ももっと稼ぐ必要があるんでしょう?」


「ああ、しかし、あまり競馬で稼ぎすぎると、怪しまれるんじゃないかな」


「でも、他に方法がある?」


「一つ、考えてることがある。犯罪だけどね」


「今更、何を」


純が鼻で笑った。


「我々は、要するに、大金持ちの全員を敵と考えていいんだから、その大金持ちの財産を奪うことも考えていいんじゃないかな。たとえば、銀行口座の金をそっくり頂くような手段が、何か無いか。冴湖さんのテレパシーを使って、できないもんだろうか」


冴湖は考え込んだ。


「私のテレパシーは、他人の心を読むことはできるけど、他人に心を伝えたり、心を支配することは、できないと思うわ」


「やってみたことは?」


「ないけど」


「じゃあ、実験してみたらいい。俺に、何か考えを送ってごらん」


突然、俺の心に、言葉が伝わってきた。(二郎さん、聞こえる?)


それは、不思議な感じだった。確かにそれは俺の心、つまり、俺の思念でありながら、俺の思念ではないのである。それは、やはり冴湖の声としか聞こえなかったが、しかし耳に聞こえた声ではなく、俺の心に直接聞こえたのだ。


「ああ、聞こえた。じゃあ、今度は、俺を操れるかどうか、試してごらん」


 俺の心に、(右手を上げろ)という冴湖の声が聞こえたが、それは聞こえたというだけで、俺を従わせる力は無かった。


「これは無理みたいだな。しかし、今の能力は、何かに使えるかもしれん。とりあえずは、後数回くらい、競馬で稼いでおこう。土日は競馬場に行くことにして、平日は、資料集めだ。ところで、今日は大河君はいないのか?」


「前の当たり馬券の一部を換金してくると言ってました」


「大丈夫かなあ。あまり大金だと、怪しまれるんじゃない?」


「競馬で勝った残りの分は、馬券のままでしばらくは持っておこう。必要な時に換金することにして。ある意味では、小切手よりも便利だから」


 俺たちは、渡にメモを残して資料集めに外出し、夕方に戻ってきた。『P5』の中は明かりがついていて、渡が退屈そうに我々を待っていた。三人とも5時に帰るとメモしてあったが、純も冴湖もまだ帰っていなかった。


「換金は無事にできたかい?」


「まあね。三連単などは大変な金額だから、換えるのは単勝複勝それぞれ一点だけにしたよ。それでも300万円だ」


「怪しんだ様子はなかったか?」


「いや。その程度の金額には慣れている、という感じであっさりと出してくれたよ」


俺は、小野寺の屋敷での出来事を渡に話した。


「多分、そんなことだろうと思っていたよ。まあ、あんたとあの女がここに来た時から、歯車が動きだしたんだな」


「で、どうだ? やる気はあるか?」


「当然さ。俺たちを実験材料にするような連中に、大人しくやられるはずはないだろう。あんたのほうこそ、いい迷惑じゃなかったかい?」


「いや、そうでもない。むしろ、楽しいよ。『天空の城ラピュタ』で、シータが空から落ちてきた時に、パズーが、これから冒険が始まるんだと思ったと言うじゃないか。あんな気持ちだな。それに、相手が、いわば、人類の生き血を吸って生きている吸血鬼どもだからな。何の気兼ねもなく戦えるってもんさ」


「そうか。実は、俺もそんな気持ちだ。よろしくやろうぜ」


差し出された渡の手を、俺は握り返した。


「あら、帰ってたの。早かったわね」


戸口で純の声がした。その後ろには冴湖の姿もある。外で一緒になったのだろう。


俺は、帰りに買って来た買い物の紙袋からビール缶を取り出してデスクの上に並べた。つまみはスーパーの惣菜とポテトチップスの類だが、ささやかな団結式というか、これからの仲間づきあいの記念の酒盛りをしようという寸法だ。


「月光族ってのは、酒は大丈夫なのかい?」


「まあね。たいして利かないが、少しは酔うよ。ほろ酔い程度にはね」


「オレはお酒は好きだよ。でも普通のつまみはいらない。つまみには甘いのがいいな」


「甘いのをさかなに酒を飲むのか?」


「なかなかオツなもんだよ。大福とか、ケーキがいいな」


まあ、普通の人間の中にも、そういう人種はいる。


結局、買って来た惣菜やつまみのほとんどは、俺が食ってしまった。どうやら、月光族というのは、菜食主義者で、しかも塩分の強いのや香辛料のきついのが嫌いなようだ。しかし、肉類が食べられないわけではないと言っていた。好きではないというだけらしい。


 ともあれ、俺と『P5』は、(俺の気持ちとしては)こうして本当に仲間になったのであった。


 


第十一章 作戦


 


 一週間後に、俺たちは、河口湖畔の家に向かった。その間に競馬を一度やって、資金は三億円になっていたが、それはまだ換金してはいない。三億円程度では、世界を相手の戦いにはまったく不十分だろうが、俺は、月村静あたりは、巨額の金を持っていると踏んでいた。長い間生きていれば、いろいろな情報にも詳しくなり、金儲けができただろう。終戦後のどん底の時代に、少し有望な会社の株を買っておけば、確実に大金持ちになっていたはずである。もっとも、戦後の日本が、あれほどの高度経済成長を遂げるとまでは予測できなかっただろうが。


 小野寺の屋敷に入ると、例のコモリ・イズミという若い女が我々を出迎えた。小野寺たちは、会議でもやっている所らしい。


「へえ、すごい家だね」


 純が嘆声を上げた。


「ここが、我々のアジトになるわけか」


渡も、あたりを見回して言う。


「どうぞ、こちらへ」


 イズミが我々を案内したのは、二階応接間だった。応接間というよりは、サンルームとでも言うべき、天井も壁も総ガラス張りの明るい部屋である。季節は秋の中旬で、まだ寒くはないが、明るい部屋は気持ちがいい。もっとも、月光族の人間が、日光を気持ち良く思うかどうかはわからないが。


 部屋に、他の5人はいた。小野寺、静、武、明良、ホシ・ヒカルの五人だ。(ホシ・ヒカルは、後で確認すると、「星光」という単純な漢字だった。コモリ・イズミは、「木守泉水」という珍しい字である。)


我々を見て、武は軽く頷いた。明良も会釈をしただけで、この二人はどうも愛嬌が無い。


「やあ、久しぶり」


小野寺が愛想良く言う。


「調子はどうだい」


静の言葉に、俺が答える。どうやら、後から合流したメンバーでは、俺が最年長らしいので、俺が代表したのである。


「まずまずってところかな。ローゼンタールや、世界の大富豪に関する本の中で、役に立ちそうなのは車のトランク一杯ある。インターネットなどで調べた分は、このCDの中に入っている。資金は、現在3億2000万というところだ」


武は頷いて、「ご苦労さん」と言った。


「後で、その資料は明良に渡してくれ。こちらでまとめた分は、これだ」


明良が、我々にA4サイズのコピーを渡した。その両面に、びっしりと名前が載っている。


「ローゼンタール系列33名、ロックフェロー系列89名、モーガン系列27名、その他、実業界が93名と、各国政府関係者が45名、科学者が13名、法律関係者が9名、王室関係が61名、貴族や旧貴族が103名、野党政治家17名、宗教関係者5名、宗教関係者は完全に中心人物だけだ。そしてジャーナリズム関係5名で、現在、全部で500名がリストに上っている。これに、二郎さんたちが調べたものから追加していく」


「しかし、それだけ殺す必要があるのか? たとえば、ローゼンタールとロックフェローの当主を殺すだけでは駄目か?」


「おそらく、それでは駄目だろう。後を誰かが引き継ぐだけだ。主要メンバーの大半を殺し、彼らの活動の基盤を破壊しなければ、意味がないと思う」


「もちろん、当主を殺すだけでも、十分な威嚇効果はあるだろうけどね」


静がつけ加えた。


「その中の、最重要の7名が、アンダーラインのついている人間だ」


俺はコピーを見た。ローゼンタール当主、ロックフェロー当主、モーガン当主の3人のほかに、ローゼンタールから2名、ロックフェローから1名、モーガンから1名にアンダーラインがついている。


「作戦の大要は、明良から説明してもらおう」


武の言葉に、明良が居ずまいを正した。


「暗殺の手段だが、一番簡単なのは、小型原爆を使うことだということになった」


「原爆!?」


「原爆といっても、1キロトン程度のもので、半径500メートルくらいを破壊するだけだ。これで、彼らの屋敷全体を爆破する。それが一番確実だ。最初は、ホワイトハウスや英国首相官邸も爆破しようかと思ったが、彼らはローゼンタールたちの手先にすぎない。我々に敵対攻撃をしてきた時に、彼らとの戦いは始めることにする」


「しかし、原爆をどのようにして使うんだ?」


「幾つか方法はある。飛行機やヘリコプターで空から投下する方法、榴弾砲で近くの場所から砲撃する方法、時限装置で爆破させる方法などがあるが、飛行機だと、すぐに軍隊の追跡を受けるから、榴弾砲を使用する」


「しかし、どうして、外国にその武器を持ち出す?」


「その必要はない。日本よりも外国のほうが、そうした武器は溢れている。俺たちは、外国に行って、武器を奪取し、光の作った原爆内蔵の砲弾を使って攻撃するだけだ」


「あまり簡単な仕事じゃないな」


「最初から、それはわかっているさ。世界を相手の戦いなんだから」


明良に代わって、武が淡々と補足した。


「中近東の国の軍隊に忍び込んで、飛行機を奪取する案も考えたが、それだとどうしてもすぐに追跡されてしまう。地上からの攻撃の方が、後をくらましやすい」


「個人を暗殺するだけなら、ピストルやライフルでも十分じゃないか?」


俺は、どうも、原爆を使用するという考えは気に入らなかった。


「それも、逃走が難しい。俺たちは、数が少ない。一人でも犠牲は出したくない」


「まあ、原爆云々は、まだ仮の決定さ」


静が言った。


「これから、もっといい案が出てきたら、変えればいい。あんまり、一つの考えに凝り固まらないほうがいいのさ」


「実は、一人一人を個別に殺す案もあるにはある。しかし、確実性、安全性という点では、原爆には劣る。もっとも、原爆にしても、原料のプルトニウムを手に入れるのは難しいが」


「普通の爆弾ではどうだ?」


「まあ、それでもいい。だが、爆弾は、やはり確実性が無い。つまり、家のどの場所にいるかによって、相手が助かる可能性がある」


「根本的なところを聞きたい。俺たちの戦略目標は、相手を殺すことか、相手を威嚇することか」


「両方だ。主要な人間はどうしても殺す必要がある。後は、それを引き継ぐ人間が出るかどうかによる。威嚇によって、彼らが解体し、消滅するなら、そこで我々の作戦はひとまず終わりだ。各国首脳陣にしても、ローゼンタールやロックフェローが攻撃された時に、それを守ろうとするなら、我々の攻撃対象となるし、ローゼンタールたちから離れるなら、攻撃しない」


「ローゼンタールが消滅しても、その後釜となる大富豪グループが出てくるだけではないか?」


「その度に叩き潰す。そこは、我々月光族の有利な点だ。我々には時間だけはある」


「わかった。戦略面での方針はそれでいい。後は、具体的な作戦だな」


「まず、プルトニウムだが、これは原爆保有国のどこかから奪うことにする。俺が考えているのは、米軍から原爆そのものを奪うことだ。これは、沖縄の宜野座に保管されているはずだ。あるいは、旧ソ連の原爆貯蔵庫から奪う方法もある。ロシア連邦は、いわば倒産会社のようなもんで、軍隊の管理能力は著しく低下しているはずだから、原爆奪取は、それほど難しくはないと思う。原爆を奪取したら、それを榴弾型に改造して、榴弾砲で撃てるようにする。どんな榴弾砲でも撃てるように、砲弾の直径はアダプターで変更できるようにする。次は、その原爆を運ぶ方法だが、それには船を使う方法と飛行機やヘリコプターを使う方法がある。どちらも、通常の港や空港は使わないようにする」


 


 





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それだけで人生は生きるに値します。

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